平成22年度JAAGA総会の会長挨拶時にトピックとして、「ワシントンにおける新たな動きとして、在日米軍経験者の組織化つまり、日米友好のネットワークを構築中で、5月末には、『在日米軍OB同窓会』の立ち上げが発表される方向で話が進んでいる」と申し上げた。
その一週間後の5月28日、ワシントンにおいて「US Military Japan Alumni Association (在日米軍同窓会)」が設立された。このことについては、小さな記事であったがわが国の複数の新聞及びテレビのホームページでも報道された。その内容は、「日米安保条約が改定から半世紀を迎えたのを機に、在日米軍経験者を中心とする『同窓会』が設立され、ワシントンで5月28日その設立行事が行われた。設立行事には90年代半ば在日米軍司令官を務めたマイヤーズ元統合参謀本部議長ら歴代の在日米軍司令官等が出席した。挨拶したマイヤーズ氏は、『日米関係は北東アジア地域の安全保障の岩盤であり、責任と重要性を持つ。長く続くことを願っており、この会はそのために尽力したい』と語り、ペース元統合参謀本部議長(元在日米軍副司令官)は『日米両国は将来に亘って二人三脚でありたい』と語った。別の出席者からは、この会を通じて『日米同盟の重要性を伝えたい』といった声が上がっていた。藤崎一郎駐米大使は祝辞で『日米同盟は書面だけではなく人と人のつながりで成り立っており、こうした関係を大切にしていきたい』と述べた」というものであった。テレビニュースの映像では、エバハート空軍大将、インジ陸軍中将、ニューマン陸軍大佐などの退役将官とともに、米空軍参謀副長チャンドラー大将(前太平洋空軍司令官)や元運輸長官ミネタ氏など政府関係者の姿が見られた。
日本における日米友好協会については、1991年に設立されたJANAFA(日米ネービー友好協会)とわがJAAGA及び座間における民間人組織として日米陸軍友好協会があるが、今回、ワシントンにおいて設立された「在日米軍同窓会」は、米国における組織として画期的なことであり、その概要についてご紹介したい。
情勢認識
政権交代後の日米関係がどのような状態であるかについては、いろんな場面で述べられておりここで改めて述べることはしない。ただ、マイヤーズ大将が「同窓会設立」設立記念行事で、普天間移設問題を念頭に「最近も問題に直面したものの、日米安保はアジア太平洋地域で基盤となることである」と述べ、ペース海兵隊大将が「沖縄県民の気持ちを理解し、関心を払っていきたい」と述べているように、米国内においても日米関係が普天間問題を中心に膠着した状況であるとの認識である。日米関係においては、この50年余り、様々な事案が起こったが、国の判断としてそれなりに解決してきた。今のこの状況をどのように解きほぐすかが、新たな政権の課題である。
日米両国は、その同盟の信頼性向上のために各分野で力を注いできているが、時代に流されることなく大きく変わらないのは軍同士の繋がりつまり自衛隊と米軍の絆である。この絆は、自衛隊が信頼醸成のための諸施策を実施し、定められた指揮所演習や共同訓練をきちんとこなしてきた結果であり、相互信頼の上に立っている。安全保障、国防に関しては、安穏としている時代はほとんどないのであって、どのような環境の下でも絆は磐石であるべきだし、わが国周辺の現在の情勢を考慮すれば、この絆は更に重要である。
同窓会組織
この組織は、ほぼ2年間の構想期間を経て設立されたものであるが、日米安保改定50周年にあたる記念すべきこの年に創設されたこと、並びに、世界各地に駐留する米国ではこれまでにおそらく例のない、この「在日米軍経験者同窓会」が始めてのケースであることにその意義がある。そして、この同窓会は、日本における日米友好協会と比較して異なる点がある。その1つは、陸、海、空自衛隊それぞれのOB組織等が主体となって独立して存在する日本の場合に比べ、在日米軍経験者の将官クラスを中心とするコアグループの努力によって設立され、特定の軍種に偏っていないことであり、あとの1つは、在米日本大使館及び総領事館がこれに深く関わっていることである。一昨年から昨年にかけて、日本大使館と元在日米軍司令官が「在日米軍経験者の組織化」に関し意見交換したことがきっかけとなっている。その後、マイヤーズ大将及びエバハート大将が中核となり他の元在日米軍司令官をはじめとする各軍種の在日米軍経験者を集めて同窓会の行動計画について話し合いが持たれ合意されている。
(1)趣旨
同窓会は4つの使命(4 STAR Mission)として、
@ 友好親善の保持 (Sustaining Friendship)
A 記憶の共有 (Sharing Memories)
B 情報の提供 (Staying Informed)
C 強固な日米同盟支援の継続 (Supporting Continued Strong U.S.- Japan
Ties)
を挙げており、具体的な活動としては、在日米軍経験者専用のサイトを立ち上げること、メールによる情報交換を行うこと、大使館、総領事館と連携しイベントを実施すること等である。
「同窓会」ホームページ等には、設立の背景につき概略次のように述べられている。 「日本には、日米安保条約の規定に基づき常時35,000名の軍人軍属が駐留。多くの場合、彼らは家族を帯同しておりその数は、総数約80,000人にのぼる。60年以上にわたる日米間の強力な同盟関係によって、軍人や家族は日本人のカウンターパートやホストとともに友好を深める機会を与えられている。そして、ほとんどの者は日本に関し少なくとも好ましい印象を持って帰国したように思われる。これらの友好親善や文化的経験が日米関係を特徴づける緊密なつながりとなっている。この様なことを背景に、米国内に広く居住している在日米軍経験者を組織化し適宜情報等を発信することにより、日本勤務間に育まれた強固な同盟パートナーシップを維持するため、社会的、文化的交流を実施することにより再開の機会を提供しようとするものである。まずは、在日米軍経験者間の関係を復活させることに焦点を充てながら、日米友好のために一緒に仕事を続けてきた日米の軍人のみならず、外交官や政府関係者をも受け入れることとする。」
(2)日本大使館
この同窓会は、在ワシントンの日本大使館の後援で立ち上げられ米国に置かれた15の日本総領事館とも緊密に連携することとされている。地方レベルにおけるインフォメーションの共有やパートナーシップを増進させるため、地方都市にこの同窓会支部を組織することとしているが、その際、最寄りの総領事館との連携が欠かせない。具体的には、組織化のために、多くの在日米軍経験者が勤務する主要米軍基地およびその周辺都市に焦点を当て、基地に対するアプローチ、広報を実施しようとしている。既に、コロラド州デンバーやテキサス州サンアントニオにおいて、同窓会設立コア・メンバー、大使館、現地総領事及び基地の4者で話し合いが開始されており、例えば、コアメンバーとして、デンバーではエバハート大将、サンアントニオではヘスター大将が基地訪問、広報を行っている。今後、米本土15の総領事館管轄地域にある基地等と連携を広げパートナーシップを深める努力をすることになる。
また、大使館や総領事館は、E・メールによるニュース・レターを「同窓会」メンバーに配信し、日本に関する最新情報や大使館等が計画する各種イベント情報を知らせるとともに、同窓会メンバーを招待することとしている。
このところ、日米関係に関し決して心地よくないニュースが多い中で、ほっとするこの「同窓会」設立のニュースであった。改めて、何故このような組織が出来たのかを考えるとき、人と人との関係も含め日米関係の中で自衛隊と米軍の関係が最も安定しているであろうことの証左であると思う。日本が、ただ単に基地を提供しているのみであれば自衛隊と米軍の絆がこれほど強くなるわけはない。運用上を含め隊務運営に関わるあらゆる機能に亘って連携を保っているということが絆に大きく影響している。信頼関係をもとに機能する組織の大切さを実感する次第である。
日本で勤務した経験のある米軍人からは、彼らの現役時代はもとより退役後においても、現役自衛官のみならず我々OBも献身的なサポートを受ける機会が多いが、彼らの日米友好にかける思いが伝わってくる気がする。在日勤務期間が1年のみであったエバハート大将もその例外ではない。JAAGAは、1996年7月の設立であるが、当時の第5空軍司令官がこの「同窓会」設立のコア・メンバーの一人であるエバハート中将である。そのJAAGAは、毎年ワシントンで行われるAFA(米空軍協会)総会に参加し、併せて、国防省等を訪問するとともにワシントン及び近郊在住のJAAGA名誉会員たる歴代第5空軍司令官(在日米軍司令官)と意見交換し交流を深める機会を持っている。一昨年、藤崎大使が着任されてから名誉会員とともに、大使を表敬してきた。JAAGAの活動とは間接的な事ながら、今回の同窓会の立ち上げを心から嬉しく思っている。
一方でこの「同窓会」自身も緩やかな組織化を図ろうとしており、日本におけるそれぞれの日米友好協会、なかんずくJAAGAと今後どのように連携するのかについては、これからの進捗を見て対応することになるであろう。
(遠竹元会長投稿)