去る平成21年11月19日、統合幕僚監部運用部長 齊藤空将をお迎えして、自衛隊の主要な活動状況及び今後の統合運用の方向性等について、「統合運用の今」と題した講演を聴取した。 講演内容は以下のとおりである。
1、自衛隊の主要な活動状況
(1)統合運用開始以降の活動状況
統合幕僚監部が新編された平成18年3月以降、自衛隊は、多様かつ国
内外での様々な活動に対応(北朝鮮のミサイル対応、洞爺湖サミット支援、
中越沖地震等の大規模災害派遣、インドネシア国際緊急援助活動、イラク
特措法に基づく活動、海賊対処行動等々) 今後も拡大する傾向と認識し、
統幕の組織の在り方等についても省改革の中で深掘りしていく必要
(2)GLOBAL ACTIVITY
派遣海賊対処行動航空隊(統合部隊)、UNDOF、UNMIN、UNMIS等
(陸自部隊)、派遣海賊対処行動水上部隊、補給支援活動、南極地域観
測協力等(海自部隊)及び高射部隊等年次射撃訓練(空自部隊)が現時
点で、世界中で活動中
(3)弾道ミサイル対応の概要
ア、経過概要
(ア)平成21年4月4日から8日までの間の毎日11時から16時にかけて、
北朝鮮の試験通信衛星打ち上げに伴う危険区域が設定
(イ)同年3月26日の破壊措置準備命令に続き、翌27日に破壊措置
命令
(ウ)同日より部隊展開、訓練、整備等を実施し、同年4月3日より即応
体制を維持
(エ)同5日11時30頃、弾道ミサイル発射
(オ)翌6日、破壊措置終結命令を受け、10日までに部隊撤収を完了
イ、BMD統合任務部隊の編成
BMD統合任務部隊指揮官(航空総隊司令官)の下、航空警戒管制
部隊(地上レーダ)、警戒飛行部隊(警戒管制機等)、情報収集部隊
(地上レーダ)、高射部隊(PAC−3)及び海上構成部隊(イージス艦
等)からなるBMD統合任務部隊を編成
ウ、部隊の展開
イージス艦を日本海及び太平洋へ展開し、PAC−3部隊を首都圏
(市ヶ谷、朝霞、習志野の各駐屯地及び習志野演習場)に展開
(4)東シナ海における警戒監視活動
ア、東シナ海周辺図
日中排他的経済水域中間線付近かつ日本のADIZ内に東シナ海
油ガス田が存在
イ、東シナ海の監視飛行
沖縄本島から先島諸島、尖閣諸島及び東シナ海油ガス田の範囲を
監視し、油ガス田等の状況を毎日継続的に把握中
ウ、東シナ海油ガス田の状況
八角亭、平湖、樫(天外天)、白樺(春暁)の油井及び昨今の海底
資源開発に向けた活発な活動状況等を説明
エ、日中海洋調査活動の相互事前通報及び我が国の対応
(ア)平成13年から海洋の科学的調査を行う際に日中相互事前通報
制度を設定
内容は次のとおり(調査開始予定日の2か月前までに通報)
・機関の名称、船舶の名称及び種類、責任者
・調査の概要(目的、内容、方法及び使用器材)
・調査の期間及び区域
(イ)我が国の一般的な対応例(事前に同意のない海洋調査船を発見
した場合)
・海上保安庁が巡視船等を用いて追尾監視
・現場において、当該船舶に対し海洋調査活動の即時中止を要求
・外交ルートを通じ、海洋調査の即時中止を申し入れ
(ウ)防衛省の一般的な対応例
警戒監視等により海洋調査活動を発見した場合、当該視認情報
を海上保安庁や外務省をはじめとする関係省庁等に通報
オ、中台新航空路設定への対応
(ア)中国と台湾を結ぶ航路が新設(平成21年7月29日運航開始)
(イ)航路は福岡FIRの外側であるものの、我が国のADIZ内を通過し、
かつ、同経路が中国機(官用機)の経路と酷似
(ウ)民航機の安全確保に留意しつつ、領空保全のため適切な対応を
実施中
(5)災害派遣活動
ア、統合運用前・後の震災対処勢力推移から見た比較
(ア)新潟中越地震(平成16年10月)と新潟中越沖地震(同19年7月)
を比較
(イ)双方とも約4,000名の人員が派遣され、部隊集中に掛かった
日数差に注目
(ウ)運用の一元化により、発災当日0名だった人員派遣が約500名に
(エ)1日後は、約250名だったものが約2,600名に
(オ)2日後は、約1,200名が約3,500名に
(カ)11日かかった約4,000名の人員集中が、5日後には完了
イ、官邸等との連絡体制の充実
(ア)発災後、陸海空各部隊等からの情報を統幕総合オペレーション
ルームに集約
(イ)総合オペレーションルームから内閣情報集約センターに第一報
を連絡
(ウ)官邸危機管理センターは内閣情報集約センターに体制連絡
を指示
(エ)内閣情報集約センターは内閣総理大臣、内閣官房長官等及び
官邸危機管理センターに第一報を連絡するとともに、事態に
応じ、緊急参集チームを参集
(オ)緊急参集チームが参集し、官邸対策室設置後は、統幕から
派遣した連絡幹部を通じ逐次情報を連絡
(カ)政府対策本部の設置を協議する場合、緊急参集チームは関係
閣僚協議を実施
ウ、各自衛隊間での連携 新潟中越地震、新潟中越沖地震及び岩手・
宮城内陸地震(平成20年6月)にお ける各自衛隊間の連携を比較
(ア)新潟中越地震では、発災から約3時間後に災派要請を受けた
ものの、協力要請はなく、各幕長に長官指示を発出
(イ)新潟中越沖地震では、発災から約2時間半後に災派要請、
その後、約3時間で空自にも協力要請
(ウ)岩手・宮城内陸地震では、発災から約2時間後に災派要請と
同時に協力要請
エ、捜索救助・避難場面での連携例(岩手・宮城内陸地震)
陸自東北方面が主体となり空自支援集団と連携、陸自ヘリの
不足を補完するように空自ヘリを運用
オ、大規模震災対処計画の概要
(ア)首都直下地震、東海地震は統合任務部隊(指揮官は陸自東部
方面総監)を編成して対処し、東南海・南海地震には統合任務
部隊を編成せず、協同で対処
(イ)首都直下地震を例として、その編成、対処要領及び対処勢力の
推移計画を説明
(6)海賊対処行動について
ア、アデン湾について
(ア)スエズ運河を経由し、アジアと欧州を結ぶ極めて重要な海上
交通路(長さ約1,000km、最大幅約400km)
(イ)日本からアデン湾までの距離は約12,000km(約6,500NM)
(ウ)運航実態(全体)
スエズ運河の年間通航隻数は約1.8万隻、全世界のコンテナ荷
動きの約2割
(エ)運航実態(日本関係船舶)
年間通過隻数は約2,000隻(自動車運搬船約41%、コンテナ船
約34%)日本からの自動車輸出台数は約150万台(日本からの総
輸出台数の約2割)
イ、ソマリア沖・アデン湾における海賊発生状況
海賊事案は昨年に比して急増、広範囲に拡大している状況
ウ、ソマリア沖の海賊の現状
(ア)重武装(機関銃、ロケット・ランチャー等)、軍隊(英・印)に銃撃
で抵抗
(イ)母船から出発した小型高速船舶を使用、短時間(約10分)で襲撃
(ウ)身代金目的のため、人質への危害は基本的には無し
(エ)襲撃方法の一例
母船により遠方へ進出、小型高速艇で包囲、ブリッジを狙って
銃撃、移乗等
エ、派遣部隊の編成
(ア)自衛艦隊司令官の下、派遣海賊対処行動水上部隊、派遣海賊
対処航空隊を組織
(イ)水上部隊は護衛艦2隻に特別警備隊員、海上保安官8名が乗艦し、
各艦には哨戒ヘリ1又は2機、特別機動船1又は2隻を搭載
(合計約400名)
(ウ)航空部隊はP−3C2機、陸自隊員による海外派遣部隊初の
統合部隊(海自約100名、陸自約50名の合計約150名)
オ、派遣海賊対処水上部隊の活動内容
(ア)東西約900kmの間を直接護衛
(イ)護衛対象船舶との間で通信を維持しつつ、対象船舶の前後に
護衛艦(及び艦載ヘリコプター)が位置し警戒を実施
カ、P−3C部隊の活動内容
ジブチを活動の根拠とし、アデン湾において警戒監視、情報収集
(水上部隊、 他国艦艇、民間船舶等に対する海賊に係る各種
情報を提供)
キ、護衛調整要領(一例)
(ア)防衛省より国土交通省を通じて護衛計画(航行予定、会合地点等)
を送付
(イ)日本関係船舶及びその他船舶からの護衛要請を国交省を通じて
防衛省へ申請
(ウ)国交省を通じて護衛実施要領(航行速度、進路等)を対象船舶
に送付
ク、関係国・関係機関との連携
(ア)関係国・関係機関と海賊の発生状況や各国の活動状況等について
連絡官(バーレーンに2名、ジブチに2名の連絡官を派遣)を通じて
情報交換
(イ)個々の艦艇間やP−3Cと他国艦艇の間においても通信により情報
交換
ケ、現場での情報交換/共有
無線通信やインターネット通信により、海域の目標情報等を交換
/共有
2、今後の統合運用の方向性
(1)統合運用体制の将来
組織の見直しや統合ニーズを反省した装備、機能等を充実強化すると
ともに運用実績(実任務、訓練・演習)を重ねることが重要。 特に人材を
育成することにより「我が国に最適な統合運用体制」を追求
(2)統合運用見直しの方向性 統合運用を円滑に行うための重視すべき機能
(以下6点)を構築・強化
ア、一元的な運用に必要な指揮統制機能の構築
イ、サイバー攻撃に対応可能な情報共有基盤の構築
ウ、平素からの高い警戒監視(情報収集)体制の構築
エ、即応可能な機動展開能力の強化
オ、国際活動等を効果的に遂行するための体制の構築
カ、関係省庁との調整・連携の強化