1 空幕防衛部長の講演概要
 平成28年2月25日(火)14時から約2時間にわたり、グランドヒル市ヶ谷「芙蓉の間」において、昨年に引き続き航空幕僚監部防衛部長三谷直人空将補を講師としJAAGA講演会が開催された。今回も「航空自衛隊の現状と課題」と題して、南西域をはじめ日本を取り巻く各種安全保障環境の変化を捉えつつ、航空自衛隊が直面する状況を見据え、丁寧な語り口により、その現状と課題が語られた。
 講師は防大29期生で職種は航空機整備であり、空幕人事計画課長、5空団司令、1補長、防衛監察本部監察官を歴任、26年8月より現職にある。講演は、その全体像を聴講者がイメージアップ出来るように、「航空自衛隊の現状」と「今後の課題」に大別しつつ、以下10項目にそって行われた。

<航空自衛隊の現状>
T 我が国周辺の安全保障環境
U 平和安全法制
V 大綱、中期及び28年度予算案
W 日米防衛協力
X 空自の最近の活動等
Y 防衛協力・交流

<今後の課題>
Z 戦闘機部隊等の体制移行
[ 松島基地の復興
\ 宇宙利用の推進に係る取り組み
] 女性戦闘機操縦者の養成
  この論旨の流れに沿いつつ、昨年から1年間で更に大きく変化した安全保障環境や新たに整備された平和安全法制等の具体的内容を丁寧に説明し、各項目ごとに自らの所見を交え陰影を深めながら講演は進められた。

2 講演内容
<航空自衛隊の現状>
まず、空自のおかれた現状を整理し、その概要について一つ一つ具体的事象・案件を踏まえつつ語ったが、激しく動く安全保障環境と広範多岐にわたる任務を遂行する空自の姿を如実に示す内容であった。

Tの我が国周辺の安全保障環境については、冒頭、東シナ海及び南シナ海(西沙・南沙諸島)の現況を示しつつ、日本周辺空域における中国やロシアの航空機等による活動の活発化、北朝鮮の核実験・弾道ミサイル等の動向を踏まえ、力を背景とした現状変更の試みなど、高圧的とも言える対応を継続させている国に対しては、その時々に適切な対応を取ることが緊要であると述べた。

Uの平和安全法制では、新たに整備された平和安全法制の内容を空自の任務に即しつつ概観し、在外邦人等の保護措置を実効ならしめる課題等にも言及がなされ、任重き空自の現況が実感された。

Vでは大綱、中期及び28年度予算案における防衛力整備上の主要事業に基づき、中期防に示された「島嶼部に対する攻撃への対処」等の体制を着実に進展させていく計画を説明した。(常続監視体制の整備、航空優勢の獲得・維持)

Wにおいては、日米防衛協力の中核として「ガイドラインの見直し」に係る新たな日米調整の枠組みとして「同盟調整メカニズム(ACM)」及び「共同計画策定メカニズム(BPM)」の調整・計画フローを説明し、平時から切れ目のない、関係省庁機関を関与させたメカニズムが日米同盟の深化に及ぼす重要性を語った。更に、横田の総隊司令部と米第5空軍司令部間のFace-to-Faceの活動に言及しその深化の度合いに意を強くすると同時に、JAAGAの諸活動により空自と米空軍間の人的交流がより重層的に促進されている事に賛辞を表した。
 また、近年の具体的な日米防衛協力における空自の取り組みについて語ったが(RFA・CNG等の日米共同訓練、グローバルホークの三沢一時展開、TPY-2経ヶ岬配備、訓練移転、HA/DR)、それらの具体的な取り組みに空自の弛まず前進する軌跡が感じ取れた。
 更に、その新たな取り組みの具体例として「ミクロネシア連邦等における日米豪人道支援・災害救援共同訓練」の紹介があった。米空軍がOperation Christmas Drop(OCD)として1952年以来実施してきたグアム、パラオ諸島方面への物量投下訓練に日豪が共に初参加し、空自C-130Hからのピンポイント投下に訓練参加各国から賞賛の声が起こったとの話に、誇らしげに頷く聴講者も散見された。 更に、全般的な防衛協力・交流においては、空幕長等と各国空軍首脳間のハイレベル交流が拡大し、前齊藤空幕長によるHA/DR共同訓練への参加提唱が実を結びオブザーバー参加国が増える成果が得られ、また同時に、実務者間、部隊間交流そして教育交流・多国間対話も積極的平和主義を支える重要な施策として鋭意推進されていることが語られた。

Xの空自の最近の活動等として、南スーダンUNMISSに係る航空輸送、ネパールへの国際緊急援助活動、昨年9月の関東・東北豪雨への災害派遣、北朝鮮核実験に係る特別集塵飛行、現政権下だけでも39回にわたる特別輸送機の運航について言及があったが、空自が実施した「八面六臂の活躍」を十二分に想起させる内容であった。

Yでは米国以外の国々との防衛協力・交流として、KC-767の運航によりCS課程学生の豪訪問が実施された事例や、前齊藤空幕長によりベトナム・フィリピンに加え6年振りで韓国への往訪がなされ、ミャンマー、カナダの初来訪と共に各国空軍との更なる相互理解と関係強化が図られた事例を防衛交流の主な事項として紹介した。
  また、東南アジア諸国空軍との防衛協力・交流として「能力構築支援」を挙げ、「空自の有する知見を活用し開発途上国の空軍等の能力向上を支援」する活動を紹介し、ベトナム、インドネシア、フィリピン等へ12回にわたり「飛行安全」「航空気象」「国際航空法」等の教育指導を行った活動の一端を説明した。この防衛協力・交流では「東南アジア地域の安定に資するものであり、各国空軍のニーズに応じて推進し、相手国に寄り添い、対等なパートナーとして相互交流の関係を深める」ことを活動趣旨としており、それを“HSI:Highly-motivated, Supportive, Interactive”と称していること、加えて、「能力構築支援」という用語の使用により、相手国に尊大な印象を与えないよう配慮し、空自では当該活動について、「能力交流」と呼称していることについて紹介した。今後については、国際ルールに基づく空自の取組を地域のスタンダードとし、地域全体の安全保障環境の安定化を図っていきたいと語った。

3 講演内容<今後の課題>
 講演の後段として、空自の対処すべき直近の課題に関し、具体的な項目を挙げ紹介した。
Zにおける戦闘機部隊等の体制移行については、先月1月31日の第9航空団新編を皮切りに27〜28年度の間に、三沢、百里、小松、築城、新田原各基地にまたがる大規模な戦闘飛行隊等の入れ替えが喫緊の課題と語った。南西域への対処、新機種導入の準備、減勢機種の効率的維持等、各種の狙いを有した新たな陣立ての説明に各聴講者は共にプレゼン画面の移行計画図を熱心に見つめた。

[の松島基地の復興に係る説明では、3m嵩上げされた飛行場地区、新設された飛行整備格納庫及び燃料/システム格納庫等の写真を身を乗り出し見入る聴講者も多く、JAAGA会員夫々の松島基地に対する想いの深さが感じられた。震災から丸5年を経た本年3月から第21飛行隊の戦闘機操縦教育を再開始動するとの説明に、空自にとっての震災復興が大きな峠を越えつつあるとの感慨が込められていた。

\は宇宙利用の推進に係る取り組みに関するものであり、スペースデブリや対衛星兵器を用いた攻撃等といった脅威に対する監視活動である宇宙状況監視や今後の事業計画についての説明があった。防衛省として新たに対処すべき宇宙空間に関し、日米両国間の建設的なギブ&テイクの関係を構築していく主管組織が空自であることをあらためて認識する内容であった。宇宙空間という新たな対処空間の出現に、聴講者一同、あらためて多種多様な任務に対応を迫られる空自の現状と課題に想いを馳せた。

講演の最後の項目として、]では女性戦闘機操縦者の養成が紹介された。これまで母性の保護、経済的効率性の観点から、長らく戦闘機操縦者への女性操縦者の配置は制限されてきたが、空自におけるこれまでの女性操縦者の実績や米空軍における女性戦闘機操縦者の実績等を参考にしつつ、今般その配置制限が解除されることとなった。その結果、早ければ平成30年度に女性戦闘機操縦者が誕生するとの話に、JAAGA会員にとっては新鮮かつ新世代の空自を感じさせる聴講内容となった。

4 質問及び会長の言葉
 2時間弱の講演の後、聴講者から「無人機の運用」「防衛生産技術基盤」に係る質問がなされたが、いずれも現下の厳しい状勢に対する問題認識と前進する空自に想いを込めたものであり、講師からもそれらの課題に係るビジョンと努力を指向する方向性が語られた。 最後に、外薗会長から、「空自の現状と課題に係る丁寧かつ具体的な説明」に対する謝辞と共に、「各種の制約がある中で、任重き課題が増えていく」空自の現状と将来に言及しつつ、空幕防衛部長の職にある講師を労い自愛を祈念する旨、閉めの挨拶がなされ講演会を終了した。 (杉山理事記)

 

 

JAAGA講演会:空幕防衛部長 三谷 直人空将補