【講演会】
 在日米軍司令官兼第5空軍司令官マルティネス中将(Lt. Gen. Jerry P. Martinez)による講演が、16時半から18時までの間、「刻々と変化する日本の安全保障環境〈Japan’s Ever - changing Security Environment〉」の演題で実施された。日英の逐次通訳は、司令官特別補佐官であるコールマン女史(Ms. Janette Coleman)が的確に務めた。また、5空軍の依頼によりAFN(American Forces Network:米軍放送網)のテレビカメラによる取材が行われた。
 定刻に、講師であるMartinez司令官とKim夫人が拍手に迎えられて入場し、講師は着席するやいなや、「温かい出迎えありがとう。JAAGAの皆さんに話す機会を心待ちにしていた」と切り出し、臨席の横田基地周辺自治体首長に謝意を述べ、講話のテーマについて説明を始めた。どのタイミングで講師紹介をしようかとそわそわする司会に気付いた講師は、「ア〜アッ、私は話しを進める準備が出来てしまっていた」と笑顔で司会にバトンを戻し、会場は爆笑に包まれ一気に和んだ。
 司会担当の伊藤理事から講師の経歴として、1986年に米空軍士官学校卒業・任官、C-17A、C-5B、C-141B、KC-135Rで4,000時間以上の経験を持つ最上級操縦士であり、指揮官として第62空輸航空団司令、幕僚としてオランダの統連合軍司令部運用副部長、米輸送軍統合作戦センター長、デユポン社国防長官企業フェロープログラム、航空機動軍司令部監察官等の勤務経験を有し、前職の航空機動軍司令部作戦部長から昨年10月に現職に就かれた旨紹介がなされた。司会の「どうぞ」の合図に笑顔で「OK!」と応じた講師に、再び会場から大爆笑と拍手が送られた。講師は在日米軍の部下や航空自衛隊に対する感謝の気持ちに続き、“very attractive lady”としてKim夫人を紹介した。
 引き続く講演は、@〈View of Regional Threats (Dangerous Region - Living Beside Three Nuclear Neighbors) 〉、A〈Status of the U.S. - Japan Alliance〉、B〈Evolution of Japanese Self - Defense Force〉、C〈U.S. Military Contributions to Japanese Security〉、D〈Final Thoughts〉という構成で、数枚のスライドを提示しつつ行われた。日本に対する信頼と尊敬の念が随所に滲み出る中、日米同盟の重要性、日本防衛の責任を果たす決意と能力を誇りを持って話された。誠実、真摯かつ情熱的な講演と、聴衆、自衛隊、在日米軍の部下に敬意を払いつつ聴衆と一体となる人柄に、参加者は大いなる感銘を受けたようである。
 講演内容の要旨及び質疑応答は以下の通り(原稿、配布物はなし)。

1 講演内容
 (1)地域の脅威
 米国がこの地域をどう見ているか話す。
 太平洋地域において日本ほど刻々と変化・発展している国は他にない。これは政治的環境の変化も一因であるが、大きな要因は6年間で日本に対する脅威が大きくなってきたことである。
 周辺国を見ると、中国は国防費がどんどん大きくなり、北朝鮮は政権が代わり軍事技術がどんどん良くなり、ロシアはクリミア・ウクライナに対する事例にも見られるように活動が活発化している。これらの国々の脅威は日本にも影響を及ぼしている。昨年空自は1,168回の緊急発進を行い、前年度より300回近く増加している。73%は対中国機であり、27%の大部分は対ロシア軍機である。一つ一つの国について、私の見解を述べる。
 北朝鮮は、日本の安全保障上最大の差し迫った脅威であり、2013年以降3回の核実験を行っている。ミサイル発射の殆どを占めるMRBM、IRBMは距離の近い韓国を目標とするものではなく、東の他の国に向けたものである。最近日本海に4発撃ち、在日米軍基地向けである旨の声明を公共テレビで発出した。化学兵器の能力も保持しており、マレーシアで兄に使用したことからも、これの使用を躊躇しないことは明らかである。
 中国の長期的・戦略的目標は、東に勢力を拡大して影響力を大きくすることである。グアムは米国にとって戦略的に重要な島であるが、中国は7つの人工島を作って領土と主張し軍事化しており、いわば7つのグアムを手に入れたものと同じと自分は見ている。これ自体が日本に大きな影響を及ぼすことになる。なぜなら日本への原油の85%は南シナ海を経由するが、南シナ海・東シナ海における海上交通をコントロールする軍事的能力を発揮することが可能となるからだ。尖閣諸島周辺で様々な活動、挑発的行動をしており、万が一領土化・軍事化すれば、日本のすぐ足下に迫っている状況となり、それは決して我々が許してはならないことである。
 ロシアは、静かに気づかれないように太平洋地域に軍を再配備している。このこと自体に懸念を持つべきである。ウクライナ、バルト3国に対するような悪い行為を、日本に対してさせるわけには行かない。
 このような国々が行動している地域であるからこそ、日本の地理的な重要性は極めて重要(so, so, so important)であり、米国にとって太平洋地域の平和と安定の重要な土台が日本ということになる。日本列島の地理的存在、日本が平和である状態、日本国民の平和を守る意思がなければ、3つの国はどんどん東に進出してくる状況にある。米国にとって、おいしい寿司や酒がある国というだけでなく、日本はとても重要(very, very important)である。このような強国及びそれに準ずる隣国の活動に対し、日本は日々対処している。

 (2)日米同盟の現状
 どのように脅威に対処すべきか。
 日米同盟ほど強固な同盟は世界中にない。日本の人々の安全を保障するとともに、同盟の強さを示すことによって日本への危害を抑止するために、同盟は強くなければならない。日米間には多くのメカニズムがあり(同盟調整メカニズム(Alliance Coordination Mechanism)、日米合同委員会等に言及)、共同で運用し相互運用性を確保し(共同訓練、ACSA、情報共有、対情報に言及)、同盟を維持強化するための様々な取組(沖縄に関する協議等に言及)を行っている。
 米国は沖縄県民の対米軍感情を十分理解しており、県民の負担軽減に日々努力している。全ての点で日米が一致しているわけではないが、米国は、日本防衛のためにできるあらゆる手を尽くす。時にとてもハードな訓練が沖縄に問題を起こすこともあるが、日頃から忌憚のない意見交換を行うことで、こうした問題を解決し乗り越えることができている。
 韓国は、日米同盟に寄与している。日・米・韓には共通の脅威があり、3国が協力し合うことにより脅威を克服できる。ここ数年で日韓の協力関係は大分進展してきたと見ている。米国にとって北朝鮮問題への対応に当たり、日韓関係は重要である。

 (3)自衛隊の進化
 日本がこれまでどのように周辺の安全保障環境を確保してきたかについて話す。
 日本国憲法に戦争放棄が明記され日本が常に平和的に解決してきたことから、世界的に日本は愛されている。しかし、不幸にも脅威の中身が変わってきた。個人的見解だが、日本は安全保障環境の変化に迅速に対応してきた。憲法を守りながら地域の安全を確保する第一級の軍事力を有している。自衛隊法95条の2の武器等防護に関する取り決めは日本にとってとても大きな一歩であり、自国同様に同盟国も守れるようになった。数日前に海自が米海軍艦船を対象とする武器等防護任務に初めて従事したことは、この地域のあらゆる国に対する強力なメッセージである。航空機についても同様な任務をやってほしい。水陸両用戦能力の構築を日本は強力に実施中である。日本の島嶼防衛上、この能力は大きな価値となる。装備品の更新も強力に進め、自衛隊の様々な装備は最新鋭である(F-35、イージス艦、ペトリオットPAC-3、SMV Block2、グローバルホーク等)。オスプレイの調達も検討されている。海自護衛艦「いずも」が南シナ海を航行することを最近安倍総理が公表した。
 これら全てのことが、日本と周辺の安全をしっかりと守っていく日本の強い意思を世界に示すことになっている。多くの達成は全て日本が独自にやってきた大きな功績の数々であり、日本が強い意思を持って前に進んで行くそのやり方を、米国としては大いに誇りに思っている。
 太平洋地域において、周辺国が日本を信頼が置ける国、必要時にしっかり対応する国・自衛隊であると見ていることは明らかである。米国は日本を誇りに思う。日本人も日本・自衛隊を誇りに思って欲しい。憲法を維持しつつ国を守る方策を考え対応してきた、素晴らしい国である。

 (4)日本の安全に対する米国の軍事的貢献
 安全がこの地域で脅かされた時、解決するためにすべきことがある。それは友人であり同盟国である米国のことであり、米国がどのように日本の安全に寄与しているかについて話したい。
 この数ヵ月間に、カーター前国防長官、マティス国防長官、ティラーソン国務長官、ペンス副大統領が訪日した。次期大統領に決定した就任前のトランプ氏を世界のリーダーで最初に訪問したのは安倍総理である。トランプ大統領が最初に招待した外国のリーダーも安倍総理である。米国にとって日本がいかに重要かを表している。 在日米軍の将兵は54,000人を超える。
 在韓米軍は28,000人であり、日本には倍の米軍将兵がいる。グーグルで調べたことなので正確性は定かではないが、日本は米軍人が最も多く勤務する国であり、ドイツ、イギリス、イタリアやアフガニスタン、イラクのような中東諸国よりも多い。米国にとって疑いもなく日本が重要であることを、皆さん分かってくれれば嬉しい。
 装備も最新鋭のものを日本に配備している(空母ロナルドレーガン、F-35、E-2D、RQ-4グローバルホーク、C-130Jに言及)。最も優秀な装備を日本に置くと言うことは、日本の皆さんに対する明確なメッセージである。米軍は世界中にプレゼンスがあり、私も多くの国での勤務経験があるが、日本ほど米軍の最新鋭の能力を有する国はない。

 (5)結論
 米軍は強く、日本防衛に係る条約上の義務を果たす用意ができている。米国は日本の安全に対して深くコミットしている。自衛隊と協力して(side-by-side)対応していく決意である。自衛隊は、世界で一流かつ最新装備を有する信頼できる軍事組織である。日米が一緒になって協力し合うことによって、我々は常に日本の安全・防衛を確保していくことができる。
 米国はこの同盟のパートナーであることを大いに誇りに思う。日本と日本国民に対して大いなる(tremendous)尊敬の念を持っている。敵対的な国(adversaries)に対する我々のメッセージははっきりしている。何があっても決してこの同盟を壊すことはできない(They will never, ever, ever brake this alliance)ということである。

2 質疑応答
 約55分間に及ぶ日本人として勇気づけられる講話に一区切りが付き「最初の質問までの時間は落ち着かない」との講師の発言に会場が和んだところで、以下のような質疑応答がなされた。

Q1:米空軍には欧州、アジア特に日、韓の勤務者が多くいる。本国に戻ったとき勤務した国に愛着が湧くと思うが、欧州や韓国での勤務に比べて日本への愛着はどの程度強いのか。
A1:在日米軍司令官に就任することが内々決まった時点で、本当に多くの人から「日本を絶対に好きになる。日本人は親切で素晴らしい」と電話をもらった。数ヶ月前東京で地下鉄に乗る時、誰かが背後から妻のKimをつけてくる気配を感じた。米国では911(警察)に通報する場面だが、結局その人は、我々が困っていると思って声をかけてくれて目的地に向かうホームまで案内してくれた。色んな国に行ったが、このような親切に出会ったことはなかった。また、赴任前にチップ・ブラウンという大佐と食事を共にしたが、彼から「日本人は世界中のどの民族と比べても親切で素晴らしい。JAAGAのアドバイスは何でも聞くように」と言われた。冗談ではなく本当のことだ。

Q2:私は現役の3等空曹です。JAAGAは「日米の良好な関係」を重視していると思うが、米軍と空自の関係にとって、下士官レベルで重要なことは何か。
A2:私の父は退役Master Sergeantであり、私は下士官の息子だ。下士官の人たちをとても尊敬している。命令したことを実際にやってくれるのは下士官である。私の軍歴の中で最も光栄に思った出来事の一つは、Chief Master Sergeant達が集まってサプライズで私を名誉CMSgt.にしてくれたことである。米軍ではSEL(Senior Enlisted Leader)が常に指揮官の傍らに居り、指揮官に対するアドバイスのみならず決心も行う。日米同盟の中で下士官を強い存在であり続けさせるためには、下士官を軍でどのように活用するかについて考えを共有していくことが挙げられる。米軍では指揮官が出張する際にSELが同行しないことはまず無い。自衛隊においても、よりそのようになって欲しい。下士官はどの軍種においても戦力の基盤であり、ちゃんと面倒を見ていく必要がある。空軍士官学校卒業に際し父から「しっかり下士官の面倒を見よ」と脅された(threatened)。私は常にそのように心がけてきたし、下士官とともに勤務することを誇りに思っている。

Q3:横田基地にまもなくオスプレイが配備されると聞いている。首都圏で災害が発生した際に有用であることは軍で勤務した者は理解できるが、一般の人にはオスプレイの評判は芳しくない。横田基地司令Moss大佐は地元と良い関係を保っているが、周辺自治体の首長の中にはオスプレイ配備に対する不安もあるだろう。在日米軍・5空軍としてどのように基地を指導していく考えか。また、横田基地周辺にも反対のための反対をする人たちがおり、首長は苦労しているであろう。どのように説得していくのか。
A3:通訳がなくても感覚で質問を理解できる(その後の質問内容の英訳に時折笑みを浮かべる姿に聴衆は和み、Coleman女史が一気に英訳を終えた際には聴衆から拍手が沸き起こった)。オスプレイに対する不安が日本にあることは理解している。何年も前のオスプレイの安全上の不備に起因すると理解しているが、ここ何年もの間、素晴らしい安全記録をもって運用されている。強い同盟のためには忌憚のない意見、何でも言い合える関係、場が必要であり、Moss大佐はもちろんのこと指揮官レベルの者には、基地の外に出て地元の人と話し合うことを推奨している。岩国へのF-35の配備に当たっては、合意にこぎ着けるまでに岩国市長と多くの話し合いを持った。米国人として肝に銘じるべきは、ここはあなた方の国日本であり、日本の人々の不安・懸念を尊重することである。オスプレイ配備に関し、地元の人々にいくつかのことを正しく伝える必要がある。それは、何年にもわたって安全に飛行運用していること、昨年の実績で明らかなように大地震時にオスプレイは重要な支援を日本に提供できること、地元の不安を米軍がしっかり聞けるメカニズムを確保することである。これらにしっかり取り組めば、横田基地にオスプレイを順調かつ安全に配備できよう。

Q4:日米安保体制が最も良い高度な次元にあることは、司令官が説明された通りである。ここ5年ほど安倍政権下で国内の安保体制整備にも努めてきた。これらについて、ワシントンで日米関係の仕事に従事している人は理解しているだろうが、今後日米安保体制を更に強化していく観点から言うと、一般の米国人にも日米安保体制の重要性を理解してもらう必要があると考える。司令官として一般の米国人にどのように説明したらよいとお考えか、伺いたい。
A4:(次のオリンピックをホストすれば日本をよく知ってもらえる、と笑いを誘い、)米国内の一般市民に日本の重要性を伝えるために、色々なことができると考える。日本と同様に米国でも、市民は政治リーダーを見ている。国防長官、副大統領、国務長官の来日に関し妻と閲覧しているフェイスブックの多くの写真は、米国内でも見ることができる。日本の重要性を米市民に大きく理解させた出来事として、北朝鮮の挑発的行動がある。米国中の市民がTVニュースを見て、北朝鮮と太平洋地域がどのような状況かを理解しようとしている。これ自体が米国市民に対する教育である。ご指摘のように一般の米国市民は日本の重要性を十分に理解していないかも知れないが、54,000人の米軍将兵が日本で勤務していることは知っており、そのこと自体が米市民が日本に対して尊敬の念を抱くことにつながっている。ご質問の意図はしっかり理解したので、私が米国に帰ったら、できるだけ多くの人に日本のことをしっかり話していく。

 会員及び空自隊員からの質問に、講師は終始にこやかにして誠実さ溢れる態度で応じ、質疑応答セッションは時間ぎりぎりまでの30分間に及んだ。
 最後に岩崎会長から、「刻々と変化する日本の安全保障環境について、幅広い情勢、日本の防衛努力、米国の見方にわたる、非常に貴重な講演を頂いた。特に、日米同盟が世界で最も強力で信頼のある同盟だという言葉が何度も強調されていた。これは我々・先輩を含めてこれまでの空自のたゆまぬ努力が成熟して実っているということだと思う。多くの人が今日の在日米軍司令官の言葉に感動したと思うが、我々が作り上げた関係が今は最強であっても明日以降将来にわたってどうなるかは、JAAGAが趣旨に則り空自と米軍の間に立って支援をすることと、現役の皆さんが我々以上に頑張って強力な日米関係を築くことにかかっている。」との謝辞に続き、「贈り物をしたいが厳しい倫理規定があるので、握手のみとしたい。」との言葉で会場がどっと沸く中、Martinez司令官とJAAGAを代表する岩ア会長との間で固い握手が交わされ、講演会は温かい雰囲気とともに定刻をもって終了した。
 (杉山(伸)・木村理事記)

 

 

JAAGA講演会
在日米軍及び第5空軍司令官マルチネス中将
「刻々と変化する日本の安全保障環境」