いよいよ自衛隊は、3自衛隊がそろってイラクでの人道復興支援のため活動を開始しました。陸上自衛隊は、イラク南東部サマワに宿泊施設を建設し、医療、給水、そして学校などの公共施設の復旧・整備を、海上自衛隊は、輸送艦、護衛艦をもって、陸自の輸送・補給を、航空自衛隊は、クウェートに駐留、C-130輸送機をもって、クウェートとイラク国内で人道復興関連物資などの輸送を、それぞれ実施しています。
今回の自衛隊派遣は、仏や独がイラクへ軍隊を派遣していないことや、大量破壊兵器が発見されていないことから、対米追随の「大義なき派遣」と反対する向きもありました。しかし、果たしてそうでしょうか? フセイン体制に代わる秩序の建設を怠れば、イラクが国際テロ勢力の基地と化してしまうことになります。国際社会はイラク戦争後、国連において、多国籍軍派遣の枠組みを決め、その上でイラクの復興と安定確保に取り組む「安保決議1511」を決議しました。その結果、現在日本を含むおよそ40の国がイラクに軍隊を派遣するとともに90を超える国や国際機関が復興支援に取り組んでいます。イラク国民が自国の再建に努力することが出来る環境を整備するための復興支援に参加することは、2001年「9.11」事件の後、米国のリーダーシップの下に国際社会の一員として共に戦う「テロとの戦い」を国策とした日本にとって、当然の事と言えます。
さらに、日本にとって最大の脅威である北朝鮮のノドン、共産党一党独裁体制がいまだに生き続ける中国の強大な軍事力の存在、あるいは中台間の緊張など、現下の東アジアの平和を考える時、日米同盟関係の維持、発展は決して欠くことの出来ないことであります。これらの観点から、今回の自衛隊のイラク派遣は、同盟国である米国と行動を共にすることを、自ら主体的に判断をしたものであり、日米同盟、国際協調を行動で証明する大変意義深いことになりました。 また、自衛隊のイラク復興支援特別措置法に基づく活動のための諸準備が行われる段階で、日米同盟下のパートナーシップが部隊レベルで極めて有効的に機能し実を上げています。
先日、私は米空軍横田基地の2003年度優秀隊員表彰の晩餐会に招待され、米空軍第374運用群に対し感謝状贈呈の機会を得ました。374運用群は、横田基地に駐留する輸送機部隊で、空自がイラク復興支援で使用する同じC-130を主力機として装備しています。感謝状は、今回の航空自衛隊の諸準備に際して、374運用群が航空自衛隊に提供した3ヶ月に及ぶ集中・徹底した準備支援・教示活動などに対するものでした。具体的には、輸送機運用に関する最新戦術・戦闘技法・手順の教示、輸送機乗員の高度な技量の展示、作戦任務間における安全確保に関する教育、部隊展開に要する施設と後方補給に関する準備事項や関係基地離発着に係わる情報の提供等、また、実際のC-130のクウェート展開のための運航において提供された経験と最新のガイドラインに基づいた詳細なブリーフィング等であります。まさに、航空自衛隊が自信を持って実施している復興支援活動は、374運用群の積極的かつ献身的な支援がその根底にあると言って良いでしょう。テロ組織が潜入しているかもしれない状況の中で、この任務を完遂するには多くの困難が伴うと思われますが、私は自衛隊が必ず立派に任務を完遂すると確信しています。それは、政府レベルで行われてきたイラクにおける綿密な調査、この調査結果を踏まえた派遣隊員の安全確保に対する施策などもさることながら、前述しましたように、日米同盟下でのパートナーシップが発揮されるなど、部隊レベルの準備が万全であると信じるからです。さらに付言すれば、今回の航空自衛隊と374運用群が見せたパートナーシップは、将来の日米共同作戦の概念規定と方向確認を示唆する日米同盟上の特筆すべき出来事だと思います。また、とりわけ重要な米空軍と航空自衛隊との相互の信頼と尊敬に基づく関係も一層強化されたことは言うまでもありません。
最後に、JAAGAの会員として、日本国民として、敬意と感謝を持って、派遣された自衛隊が任務を完遂し、隊員の皆さんが無事帰国されることを見守りたいと思います。 (村木鴻二会長、元航空幕僚長)