金木犀のほのかな香りがふわりと漂う秋たけなわの平成14年9月24日、上智大学大学院教授川口和子氏並びに上智大学教授樋渡由美氏に引率された、17名の大学院生による横田基地研修が JAAGA理事田中伸昌及び岡本智博立ち会いの下に行われた。
本プロジェクトは昨年の同時期に予定されていたものであるが、9・11事案発生によって今日まで延期を余儀なくされていた企画である。在日米軍司令官ワスコー中将に対する川口・樋渡両教授による表敬訪問では、机におかれていたパイロット・ヘルメットから極めて自然にワスコー中将のパイロット人生の話になり、そこで生まれた暖かい雰囲気がそのままブリーフィング・ルームに持ち込まれた状況で在日米軍の紹介が始まった。ブリーフィングはこれまで以上に内容が充実し、簡潔にして明快、重ねに重ねられた推敲の跡が伺われ、ワスコー中将のこのプロジェクトに賭ける気持ちが十分に伝わるものとなっていた。 これに続く学生と司令官による質疑応答は、一転して極めて厳しい様相となった。「ソ連崩壊後、現在では何が脅威になっているのか。」、「イラク攻撃はどの様な名分で行われるのか。」、「悪の枢軸として名指しされたイラク、イラン、北朝鮮に対しては、順番に先制攻撃が為されていくのか。」、「大量破壊兵器の脅威であれば、広島で使用された原爆は大量破壊兵器ではなかったのか。」等々、静かな口調ではあるが実に重い内容の質問が繰り出され、ワスコー中将も「いい質問だ。」と繰り返しつつ、質問のひとつひとつに対して、司令官としてのあるいは米国市民の一人としての見解を、丁寧かつ誠実に応答していた。学生たちは司令官の回答をそのまま了解したというわけではなかったが、命を国家に捧げる軍人としてのワスコー中将の人柄溢れる真摯な対応に、心を揺さぶられたようであった。 和やかなうち解けた昼食会の後約1時間30分の予定で、横田基地内の施設及びC−9・ナイチンゲール機の見学が行われた。学生たちは空飛ぶ救急・救命システムであるナイチンゲールが総計20機存在し、そのうち4機がアジア・太平洋地区の任務に就いていることを教えられ、その規模と任務の雄大さに米国のワールドワイド・コミットメントの実態を垣間見たようであった。
今般の研修を通して学生たちは、国家防衛の有り様、日米安保体制の実態といった、これまでは全く考えていなかった軍事分野における我が国の努力と実態を知るとともに、軍事的視野からもう一度物事を考えてみる機会を得たことを、心から喜んでいるようであった。 (岡本智博理事記)