1 空幕装備計画部長の講演概要
 平成28年5月16日(月)14時30から約1時間半にわたり、グランドヒル市ヶ谷「芙蓉の間」において、年次総会に合わせた事業として航空幕僚監部装備計画部長井上浩秀空将補を講師としてJAAGA講演会が開催された。今回は「空自後方の将来について」と題して、南西域をはじめ日本を取り巻く各種安全保障環境の変化を捉えつつ、多種多様な装備品を適時に運用に供し得る俊敏性を有した後方について、その現状と将来が語られた。
 井上将補は、モザンビークPKO派遣をはじめ、外務省国際情報局勤務、米国統連合幕僚課程履修、中国防衛駐在官勤務といった海外関連の勤務経験を有しており、空自後方の将来について国際的視野からの考えが表明された。
 講師は幹候75期(防大29期相当)学習院大学法学部出身で職種は航空機整備であり、空幕装備課長、幹部候補生学校長、3空団司令を歴任、27年12月より現職にある。講演は、その全体像を聴講者がイメージアップ出来るように、以下6項目に整理弁別し、具体的なデータ等を提示しつつ進められた。

<空自後方の将来について>
1 空自後方概観
2 空自後方が目指す方向性
3 空自後方の取り組み
 (1) 後方支援態勢の見直しに係る検討
 (2) 新機種導入に向けた後方支援態勢整備
4 防衛装備行政に係る検討状況
5 日米後方関係者の交流
6 後方を担うリーダーの育成
 冒頭、熊本地震に迅速に対応した空自の災害派遣活動状況を写真で紹介し、後方活動が陥りやすい鈍重性を克服し、如何に俊敏性を確保するかが最も重要な後方の課題だと語り、近年、更に大きく変化した安全保障環境や新たに取組が始まった各種後方関連施策等の具体的内容を丁寧に説明し、各項目に自らの所見を交え後方の現況と進むべき将来が語られた。

2 講演内容<空自後方概観>
 まず、過去、現在、将来にわたって空自の装備品は多種多様であり更なる高度化及びシステム化が進展している状況にあり、約90万品目にのぼる管理品目数は陸海自より大幅に多い事を特質として挙げた。また、今後とも防衛関係費の大幅な増加は見込めぬ中、維持・整備経費の効率的活用の重要性に言及し、空自後方の維持・整備基盤が人的、物的、技術的に防衛関係企業に依存する特徴を挙げ、官民一体の後方支援こそが運用支援の根幹であると述べた。
 更に、南西域を中心に急増する緊急発進回数を示し、対領空侵犯措置が他の組織では代替え出来ぬ任務であり、戦闘機のみならず警戒監視や通信ネットワーク等、様々な装備品を常時適切に維持する後方機能の重要性はますます増大していると語った。その具体的現状として「装備品の可動率を確保するため、部隊ワークロードは大幅増加」と述べ、航空機の可動率維持を部品の共食い(整備ロードの投入)で対処している空自整備部門の実態をグラフで説明した。

3 講演内容<空自後方が目指す方向性>
 統合機動防衛力の構築、各種施策の推進(防衛生産・技術基盤戦略、総合取得改革の推進、防衛装備庁の新設)といった後方を取り巻く環境変化や、厳しさを増す財政状況及びF-35A等の新導入に伴う新たな後方態勢を考慮して、今後目指す方向性として3つの項目を挙げた。この3項目を講演の主要視点に据え、空自後方の現状と将来が語られた。
 ○運用ニーズへの迅速かつ的確な対応
 ○予算の効率的かつ効果的な活用
 ○後方を取り巻く環境の変化への柔軟な対応

4 講演内容<空自後方の取り組み>
(1) 後方支援態勢の見直しに係る検討 目指す方向性を踏まえた後方態勢見直しの状況を、主な検討の具体的な事例を踏まえて説明した。後方支援態勢の見直しに係る説明項目は以下のごとく広範多岐な内容となった。
 ○空幕装備計画部の改編  
  ・運用ニーズの早期具現化、装備技術行政への迅速な対応   
  ・予算の一元管理による予算編成の全体最適化  
  ・物別班による装備品の適切な維持及びコスト管理
 ○防衛装備庁と連携した防衛生産・技術基盤の強化 <契約制度の改善>
  ・長期契約を活用した一括調達
  ・PBL(Performance Based Logistics)実施による維持整備の効率化
  ・随意契約対象範囲の拡大 <防衛基盤の実態把握>
  ・強靭なサプライチェーンの維持確保(防衛産業マップの作成)
 ○予算一元管理の取組  
  ・限られた予算、後方資源で可動装備品の最大確保
 ○補給本部の改編
  ・運用支援に係る総合調整機能の強化
  ・LCC(Life Cycle Cost)管理を重視して、機能別から物別に組織改編 
 ○予算科目の見直し  
  ・各装備品の維持に係る複数予算科目の整理統一
 ○官民データ共有基盤の構築  
  ・防衛関連企業における予見可能性(消費予測等)の向上  
  ・官民の連携強化によるサプライチェーンの円滑化
 ○整備基盤の集約に係る検討
  ・米空軍の「整備ネットワークの統合」を参考
  ・整備力・部品等の資源を集中配分、整備基盤の集約
  ・後方業務のアウトソーシング化の推進
(2)新機種導入に向けた後方支援態勢整備
 今後導入される新規装備品が目白押しの状況の中で、その後方支援態勢も従来とは大きく変化し、空自後方の一大変革期になると語り、主な新機種の後方支援態勢を説明した。
 29年度の導入が予定されるF-35Aの後方支援はALGS (Autonomic Logistics Global Sustainment)という全ユーザー国共通のシステムで一元管理され、専用情報インフラにより整備指示・マニュアルも配信を受け整備員は専用端末で閲覧し、航空機の部品も全世界規模のサプライチェーンマネージメントにより補給されると述べた。整備レベルは2段階整備で従来機のような定期修理(IRAN)はなくなるが、FACO(Final Assembly and Check out)と呼ばれる機体・エンジンの製造施設を活用し、米国政府がアジア太平洋地域におけるF-35の整備拠点(リージョナル・デポ)を日豪両国に設置することを決定した重要性について言及した。
 滞空型無人機導入については機体が地上統制装置からの統制で運航されるため、航空機、地上装置及び衛星通信という多岐にわたる整備が必要であり、現在、防衛省では後方支援体制(態勢)の検討を進めていると語った。
 KC-46A導入に向けた後方支援態勢整備については、米空軍でも採用している統合後方支援(ILS)を追求していく予定であり、最新のマネージメントプログラムの活用によりリスク及びコストを低減し、2段階整備によりライフサイクルコストを適正化させ、民間整備プログラムに基づく整備要領の採用を図ると説明した。
 いずれの新機種も当面FMSが基本であり、従来機に比べ国内企業の参画範囲は少なく、迅速な運用支援を実施出来るか不透明な部分も多い中、これも時代の趨勢と捉えつつ、最大限の後方活動が出来る方策を練っていきたいと語った。

5 講演内容<防衛装備行政に係る検討状況>
 新編された防衛装備庁が主体となって推進する防衛装備行政との連携強化は空自後方にとっても極めて重要であると語り、具体的内容を説明した。
 まず、防衛生産・技術基盤の維持強化に関する取組として、厳しい予算環境の中、装備品に占める輸入品の割合が近年増加し、下請けを含む防衛生産・技術基盤への影響が出ているとし、防衛産業の強みとリスクを把握しつつ、戦略的な研究開発ビジョンの策定や企業の優れた技術力を発信するための機会創出の必要性について説明した。
 また、プロジェクト管理の推進として、プロジェクト・マネージャー(PM)を定め統合プロジェクトチーム(IPT)による組織横断的管理を実施するPM/IPTの体制拡充やライフサイクルを通じたコスト・スケジュール管理といった手法の導入について説明し、防衛省・自衛隊全体で重点管理対象装備品12品目が選定されたと語った。空自関係装備品はその内4品目(グローバルホーク、C-2、F-35A、将来戦闘機)であり、今後、当該装備品の構想段階、研究・開発段階及び量産・配備段階を通じた全ライフサイクル期間にわたって定量的・客観的な測定評価が行われることを示唆した。
 更に、防衛装備移転三原則に基づく諸外国との防衛装備・技術協力や、防衛生産・技術基盤の維持強化と調達コスト低減に繋がる官民Win-Winとなり得る契約制度の改善等について言及した。

6 講演内容<日米後方関係者の交流>  
 アジア太平洋地域の安全保障環境が急激に変化する中で、域内の相互運用性の向上に資する日米後方部門における協力支援態勢の強化が必要との認識に基づき、各級レベルにおける交流が緊密の度を深めていると紹介した。
 米空軍参謀本部のA4担当部長と空幕装備計画部長との間で定期的に実施されるA4トークスを本年3月にヒル及びルーク空軍基地で実施したが、両基地共にF-35Aの量産・配備に重要な意味を有する基地であり、米空軍の空自に対する配慮を感じたと話した。
 同様に太平洋空軍後方部門の大佐級と空幕装備課長との間の会議や、関係装備品等に係る実務者レベルの交流もこれまで以上に積極性を増し、後方分野においても米空軍との関係強化が図られていることが、説明に際して映し出された日米後方関係者が集う写真から伺い知れた。

7 講演内容<後方を担うリーダーの育成>
 後方を取り巻く環境が激変していることを一番重要な現状認識として語った講演のまとめとして、「装備品の高度化、システム化」「サプライチェーンの構築(防衛生産・技術基盤との連携)」「装備の国際化」「新たな契約制度」「防衛協力・交流の推進」等の広範多岐にわたる業務を推し進めていく喫緊の課題として後方を担うリーダーの育成について言及した。
 この激変する渦中において、古いやり方や考え方に固執することなく、先を見通し、効率的かつ効果的に運用を支える後方のあるべき姿を追求するリーダーの育成が極めて重要であると述べた。現在、後方のリーダーに求められる資質は、後方分野の総和を引き出し、後方全体を牽引出来る識能(総合力)と様々な分野に関する専門的な識能(専門力)であるとし、今後努力すべき抱負として空自後方の将来についての講演を総括した。

8 質問及び会長の言葉
 後方の現状と課題に係る広範かつ詳細な説明を含む講演であったため、質問時間に充て得る時間も僅かとなったが、聴講者から「後方・研究開発の組織」に係る質問がなされた。現下の変化の激しい状況における空自の後方と研究開発に係る問題認識を込めた質問内容であったが、講師からもそれらの課題に対する努力すべき方向性が語られた。
 最後に、岩ア会長から、「空自後方の現状と課題に係る丁寧かつ具体的な説明」に対する謝辞と共に、「各種の制約がある中で、任重き課題が増えていく」空自の現状と将来に言及しつつ、空自の後方部門を支える中核として空幕装備計画部長の職にある講師を労い自愛を祈念する旨、閉めの挨拶がなされ講演会を終了した。      (杉山(伸)理事記)

 

 

JAAGA講演会:空幕装備部長 井上 浩秀空将補