1 概要
 平成28年度の「つばさ会/JAAGA訪米団」は、岩崎JAAGA会長を団長として計6名で9月11日から23日までの間、約2週間にわたり訪米した。訪米先は、ハワイ、ネリス空軍基地、ダラス・フォートワース、ワシントンD.C.の4か所で、ワシントンD.Cにおいては、永岩JAAGA顧問以下3名が本訪米団に合流した。
 最初にハワイでは、太平洋軍司令部、太平洋空軍司令部、ホノルル総領事公邸を訪問した。次に、ネリス空軍基地では、USAF Warfare Center(以下、USAFWC), 脅威訓練施設(Threat Training Facility)、ネバダ試験・訓練空域( Nevada Test & Training Range)を研修し、ダラス・フォートワースでは、ロッキード・マーチン社のフォートワース工場において、F-35 の生産ラインや、列線地区を見学した。最後に、ワシントンD.C.では JAAGA名誉会員等と交流し、また空軍協会(以下、AFA)カンファレンスに参加するとともに、空軍参謀本部、統合参謀本部を訪問し意見交換等を実施した。

2 ハワイ
 最初の訪問地ハワイでは、まず太平洋軍司令部で、J5からブリーフィングを受けるとともに意見交換を実施した。太平洋軍担任領域には、米中日の3大経済国、核兵器保有国を含む6つの軍事大国及び米国の同盟国7つのうち5つが地域に存在することから課題も多く、特に北朝鮮の核兵器及びミサイル開発や、東シナ海や南シナ海の中国の強圧的行動には強い懸念を示していた。そのような状況下で太平洋軍としては、同盟及びパートナー国と強固な関係を築くことや前方展開を維持することが重要であると強調していた。
 次に、太平洋空軍司令部においてブリーフィングを受けるとともに、太平洋空軍司令官等と意見交換を実施した。ブリーフィングでは地域内の脅威や、同盟国との連携の重要性等を強調していた。意見交換においては、在日米軍司令官の指揮統制権限、日本へのAOCの設置、サイバーセキュリティ、人工知能(AI)の活用、更には北朝鮮への対応等に関して幅広く意見交換ができた。
 特に太平洋空軍司令官(オショネシー大将)からは司令官官舎での夕食会に招待して頂き、和やかな雰囲気の中で交流を深めることができた。
 ハワイ総領事主催夕食会においては、三澤康総領事から「米空軍と航空自衛隊の関係は皆さんが退官されても緊密に続き、両者の関係緊密化に大いに貢献していることに敬意を表する。」とのお言葉を頂いた。
 
            (太平洋空軍司令官と団長の盾交換)
 
     (太平洋空軍司令官官舎の庭で。右から5人目が太平洋空軍司令官)
 
         (ホノルル総領事公邸内で。中央が三澤総領事)

3 ネリス空軍基地
 ネリス空軍基地では、USAFWCや414th Combat Training School、脅威訓練施設を研修した。
 USAFWCでは、あらゆる部隊を対象として運用試験、評価、戦術開発、上級の訓練を提供している。また、教育訓練については、実戦的かつ専門的で高度な教育訓練を担当しており、分野ごとに設置している学校での教育とレッド・フラッグ、ブルー・フラッグ、グリーン・フラッグ、バーチャルの4種類の演習を実施している。2018年1月にはF-35のウェポン・スクールを開設する予定である。
 414th Combat Training School では、レッド・フラッグ演習は、ベトナム戦争で多くの被撃墜被害を受けたにも拘らず少ない撃墜率しか得られなかったことに対する反省から始まったとの説明を受けた。
 脅威訓練施設では、主としてソ連製等の対空兵器、地上兵器、航空機等を収集して、その特性を分析し教育及び演習に活用している。Mig-23、Mig-29等の航空機や多数の地対空ミサイル、戦車、対空レーダー等が展示してあり、実際に見学することができた。更にネリス空軍基地の列線を見学することができ、F-35やサンダーバーズの機体も見学できた。
 
              (脅威訓練施設内の地対空兵器)
 
                    (Mig-29の前で)
 
           (列線地区で。後方はサンダーバーズの航空機)

4 ダラス・フォートワース
 ダラス・フォートワースでは、ロッキード・マーチン社ダラス・フォートワース工場を研修した。ここには元在日米軍司令官の Burton Field 元中将が勤務しており、多大なご支援を頂いた。また、空自F-35A後方連絡官の命尾2等空佐にも同行して頂き、様々な話を伺うことができた。
 ロッキード・マーチン社は、@Aeronautics, AMissiles & Fire Control, BRotary & Mission Systems, CSpace Systemsの4つの部門で構成されており、社員数は約22,000人、10か所に拠点を持ち、グローバルに展開している。
 当工場ではF-35の開発に関するブリーフィングを受けるとともに、F-35の製造過程も見学することができた。長さが1.6qにも及ぶ製造ラインには各年度調達の堆積分で約130機が製造過程にあるとの説明があった。その長大な施設を流れ作業で1往復半して組み立てを完了するが、組み立ての際には各部位の接合部が不連続になるとステルス性に影響が出るため、各部の製造・成型に±50ミクロンの誤差しか持たない加工機械を導入しているという。
 今後の主要なイベントとしては、日本向け初号機(AX-1)納入(9月)、海外初のF-35運用基地開設(イタリア:アメンドーラ)、イスラエル初号機納入(12月)と続き、2016年末までに200機以上、2017年末までに340機以上、2020年末までに600機以上が運用状態になると見込んでいる。日本向けの状況としては、AX-1〜AX-4は2016年中にルーク空軍基地に配備(空自パイロットの教育に使用)、AX-5はMHIで2017年度3四半期に完成予定(電磁干渉試験のため米国へフェリー)、三沢基地へのF-35Aの初度配備はAX-6で2017年度4四半期予定等の説明があった。
 
       (ロッキード・マーチン社前で。中央がField元在日米軍司令官)
 
     (F-35Aの前で。飛行服を着ているのが海軍出身のテストパイロット)

5 ワシントンD.C.
(1) JAAGA名誉会員等との交流
 ワシントンD.C.では、JAAGA名誉会員(元第5空軍司令官や元太平洋空軍司令官)、シュワーツ元空軍参謀長、レイモンド中将(元第5空軍副司令官)、クラム准将(元第5空軍副司令官)等と交流を深めることができた。エバハート元大将からは「ワシントンDCにおいてこのように交流を深める場が定着するに至っている。この機会が日米空軍間の交流にどれだけ貢献しているか計り知れないと感じている。」と、またノース元大将からは「JAAGAの存在は、日本側が米国の立場に立って世界を見る機会になると同時に、米国側が日本の立場に立って世界を見る貴重な機会となっている。この見方の違いを理解することが日米の相互理解に通じていることを強調したい。」とのお言葉を頂いた。
 また、夕食会の前にドーラン前第5空軍司令官に対し、JAAGA名誉会員の委嘱式を実施した。ロビンソン前太平洋空軍司令官は不参加のため、後日、名誉会員の盾を郵送することとなった。
 
       (ドーラン前第5空軍司令官に対する名誉会員委嘱)
 
             (夕食会の後、参加者全員で)
(2) AFAカンファレンス参加
 AFAカンファレンスは、初日に米空軍らしく感動的な演出の元、Opening & Awards ceremoniesが実施された。最初に、空軍長官(Deborah Lee James)や統合参謀本部議長(Gen. Joseph Dunford Jr.)及び空軍参謀長(Gen.David Lee Goldfein)の講演があり、その後は、将官、有識者等によるセミナー及びパネルディスカッションと続き、同時に企業による装備品展示も実施されていた。川崎重工が日本企業初の展示を実施していたのは、印象的だった。
 また、カンファレンス期間中にAFA会長(F. Whitten Peters)表敬の機会もあり、ギフト交換や意見交換することができた。更には航空幕僚長及び防衛部長もカンファレンス会場に来訪されており、お会いすることができた。
           
           (統合参謀本部議長の基調講演時の会場風景)
 
                (AFA会長(右から二人目)表敬)
 
          (会場で航空幕僚長及び防衛部長と共に)
 特に空軍長官は以下のように講演し、最後に、B-21の命名を発表した。 「【「全地球的な警戒、全地球的な活動範囲、全地球的な戦力投射】が空軍に求められる今日の使命であり、第1次世界大戦から第2次世界大戦、更には湾岸戦争を通して効果的な地上攻撃を可能としてきた。こうした大きな変化と同時に核抑止の体制維持は変化することなく、欧州正面での前方展開と抑止作戦、アジアでの前方展開とFONOP作戦をはじめとする抑止作戦を継続している。
 また、2018年予算には更なる人件費削減が盛り込まれているが、我々は能力の高い人材を多く必要としている。人材は最優先事項である。装備面では、F-35、KC-46、B-21が3大重要プログラムであるとともに、宇宙分野も不可欠の分野であるが、17のプログラムで13億ドルの削減が提示されており、将来に向けて重大な影響をもたらすことを憂慮している。
 WW1で初めて空爆を始めて以来、米国の空爆による戦力投射は米空軍の中心的な任務を成してきたが、その考えは今日も変ることがない。ドリトル爆撃隊、B-52の戦略爆撃、B-1B、B-2、そしてB-21に至るが、本日ここにB-21を「ドーリットル・レイダース」にちなんで「レイダー (Raider)」と命名することを発表する。」
 
                (B-21「レイダー」命名発表)
(3) 統合参謀本部(J5)訪問
Maj. Gen. John T. Quintas,(Air Force) Deputy Director Politico-Military Affairs-Asia(アジア担当副部長)、
Capt. Scott Tait,(Navy) Asia Pol-Mil Affairs, Chief Northeast Asia Division(北東アジア担当課長)
 日本の安全保障上の当面の関心事及び米国の関心事等に関する意見交換を実施した。特に北朝鮮の核開発に対しては、共通の懸念事項であり、情勢分析(軍事、政治の状況含む)を常に適切に実施しておかなければならないとの認識を共有した。更には、北朝鮮に対する経済制裁の効果や中国の経済的・政治的関与、南シナ海における中国の行動への対応、地域との連携の重要性等についても意見交換することができた。
(4) 空軍参謀本部訪問
 ア A2 (Maj.Gen. (selected) Geary, Assistant A2)
 情勢ブリーフィングを受けるとともに、ロシア及び中国に関する課題について意見交換した。特に、ロシア、中国の戦闘機パイロットのスキル、J-20やPAK-FAの性能評価等について意見交換したが、A2は1990年代からPACOMで対中情報分析に携わってきたおり、中国の能力向上には見るべきものがあるとの認識であった。
 イ A5/8(Anthony Reardon, Assistant A5/8)   
 予算の制約、CAOCの必要性、基地機能の強靭化、宇宙アセットの重要性、攻防兼備のサイバー戦能力構築、3rdオフセット戦略、第6世代戦闘機(米軍は次世代航空支配 (Next Generation Air Dominance: NGAD)と言っている)検討等に関して幅広い意見交換が実施できた。
 ウ A3 (Lt. Gen. John W. Raymond)  
RPAに関してパイロットの養成数やミッション内容、円滑なマルチ・ドメイン作戦の遂行、パイロット不足に関する問題、JICSPOC(Joint Interagency Combined Space Operation Center)等に関する幅広い意見と共に、旧交を温めることができた。
 
       (空軍参謀本部で、A3レイモンド中将(右から3人目)と共に)
 エ SAF/IA (Maj. Gen. Martin,)
 東シナ海及び南シナ海に関する現状認識、国際仲裁裁判所の裁定に関する認識、アジア諸国のマルチな枠組み構築等について幅広く意見交換できた。
 
            (カンファレンス会場でSAF/IAと共に)

6 最後に
 AFAカンファレンスへの参加や米空軍基地及び米国国防省への訪問等を通じ、米軍、特に米空軍の最近の動向を理解するとともに、日本及び航空自衛隊に対する信頼と期待の高さ、日米同盟の重要性に対する共通の認識を改めて痛感するとともに、様々な教訓を得ることができた。
 本訪米にあたっては、米国防衛駐在官小川1佐、進藤2佐、米空軍参謀本部連絡官菅井1佐には、F-35Aのロールアウトセレモニーを控え、空自高官の来訪及び総理訪米に備えた諸調整や準備でかなり多忙な時期であったにもかかわらず精力的にご支援を頂いた。また、太平洋空軍司令部連絡幹部玉越1佐は、着任直後でまだ環境に慣れていない中で、猪山2佐と共にご支援を頂いた。
 更に統幕太平洋軍連絡官斎藤1陸佐、元第5空軍司令官Field中将等多くの方々から、事前の献身的な調整及び現地での積極的なご支援を頂いた。また出発前には、航空幕僚監部や情報本部からもブリーフィングして頂くとともに、米空軍基地訪問に関する諸手続き等のご支援も頂いた。関係各位のご協力、ご支援により本訪米が円滑に実施でき、多大な成果を得ることができました。関係各位の皆様に、訪米団一同心から感謝申し上げます。 (石野理事記)

 

2016年度「つばさ会/JAAGA訪米団」 AFA総会参加等報告