今年度の「つばさ会/JAAGA訪米団」は、昨年同様9月7日、真珠湾・ヒッカム米軍統合基地からスタートした。本年度は、外薗健一朗会長を団長に、永岩顧問、森下、渡邊、小野田、山崎、石野(次)、平田、米沢各理事の計9名のメンバーにより、米太平洋空軍司令部、米太平洋軍司令部(ハワイ州ホノルル)、戦闘空軍司令部、第1戦闘航空団、第497ISRグループ(ヴァージニア州ラングレー空軍基地)、ワシントンDCにおいてJAAGA名誉会員との交流行事(新規名誉会員の委嘱式を含む)の後、統合参謀本部、空軍参謀本部を訪問するとともに空軍協会主催の航空宇宙コンファレンスに参加した。それぞれの訪問先において大変有意義な意見交換を行い、相互の友好と信頼の絆を深め、また米空軍の現状と課題、今後の動向について知見を得ることができた。(行動概要は別添の通り)

●ヒッカム米軍統合基地等(太平洋空軍司令部、太平洋軍司令部等訪問、在ハワイ総領事)
 太平洋空軍司令官ロビンソン大将( Gen. Lori J. Robinson)は、昨年10月16日着任された。兵器管制官出身であり米空軍の女性では補給コマンド(AFMC)司令官に続いて2人目の大将である。
 太平洋空軍の一番の課題は、太平洋地域の広大さを克服して戦力を必要なところにいつでも投射することにある。最近、ハリス太平洋軍司令官が「アジア太平洋」という言葉にインドを加えて「インド−アジア−太平洋」という表現を使用しており広大な地域におけるエアパワ-の重要性は益々高まっていると強調し、強い空軍を造成するためには、プレゼンス、パ-トナーシップ、パワー投射、人員(パーソネル)の4つの「P」がキ-となる要素であるとの認識を示した。今年のコープ・ノースにはシンガポールとベトナムがオブザーバー参加するとともにレッド・フラッグ・アラスカでは演習内容もさることながら各国空軍の高官が一堂に会して相互理解を深める機会となったことにも大きな意味があるとのことであった。
 日米協力の中心的課題は、相互運用性の向上が重要であり、通信ネットワークの連接、AWACSなどの情報共有、空中給油の相互活用などが運用の柔軟性と経済性を倍加させるとの認識も同時に示した。
 広大な担任領域、各地への前方展開という特質上、最も重要なのは指揮統制であり今日においてもより適切な指揮統制を目指して改善を続けている。
 中国の南シナ海ファイアリークロス礁の3,000m滑走路建設は通常の航空機運用には過大な施設であり軍用機の運用を考慮していることは疑いがない。一方で平和と繁栄の維持のためには外交的、政治的な対応とあわせた施策が重要であるとのことであった。
 ハワイ到着初日に三澤康ハワイ総領事主催夕食会にお招きをいただいた。外薗団長が外務省勤務時代、総領事は入省間もなくであり、外薗団長からブリーフィングをいただいたことをいまでもよく覚えているとのことであった。

●ラングレー空軍基地(戦闘空軍司令部、第1戦闘航空団、497ISRグループ)
 カーライル司令官によれば、3つの戦略文書:@”Vision of the Air Force: Who We Are”、A”Mission of the Air Force: What We Do、B”Strategy of the Air Force: Where We Need To Go”を基本として戦闘空軍の戦略を最近策定したとのこと。
 航空宇宙優勢、グローバルな統合ISR、迅速なグローバル機動、グローバル打撃、指揮統制という空軍の5つの中心任務を遂行するために12の中心的機能(@核抑止、A航空優勢、B宇宙優勢、Cサイバー空間優勢、Dグローバルな精密攻撃、E迅速なグローバル機動、F特殊作戦、Gグローバルな統合ISR、H指揮統制、I人員救助、Jパートナーシップの建設、K迅速な戦闘支援)が規定されており、戦闘空軍が担任するのはこれらのうち5つ、即ち@航空優勢、Aグローバルな精密攻撃、Bグローバルな統合ISR、C指揮統制、D人員救助である。
 ・戦闘空軍は34個航空団、19基地、世界の70か所以上で300以上の作戦を展開している。
 ・戦闘空軍の3つの優先事項は、@現在の所要に対して最大の戦闘力を提供すること、A将来必要とされる能力を準備造成すること、B戦闘力の基礎となる人材を開発することである。
 ・戦闘空軍は地域軍へのフォース・プロバイダーであり、主たる演習(Green Flag, Virtual flag Red Flag. Cyber Flag, Blue Flag)においても必要な戦力を提供している。
 ・将来における航空優勢の確保のためには電磁波に対するステルス性に加えて、IRスペクトラム、EWスペクトラムにわたる優位を確保する必要がある。また指向エネルギー兵器は弾薬の補給を必要としないという点で画期的であり、新しい航空機エンジンの開発も必要である。
 ・グローバルな精密攻撃を可能とするためにはGPSなどの宇宙アセットの活用への妨害対処が必要であり、新たな長距離爆撃機(LRS-B)の開発は不可欠である。 ・グローバルな統合ISRにおいては、各種センサーとアセットの計画及び運用、処理の同期、融合、解析、配布をグローバルに行うことが必要である。
 ・軍、外交、民間の努力を結集して人員の復旧に努めていく必要がある。 ・軍の優位性というものは結局のところ「人」に帰結することから、精神的、物理的、社会的、思想信条的側面に関してバランスの取れた施策が必要である。
 上記のように戦闘空軍の主たる任務とその任務に対する基本的な考え方を司令官自らブリ-フィングをいただいた。
 第1戦闘航空団は米軍で最も歴史のある航空団であり9月26日で創立100周年を迎えるとのこと。F-22×2個飛行隊及びF-22の訓練における対抗機となるT-38×1個飛行隊を保有している。
 F-22の主たる運用目的は航空優勢の確保にあり、空対空戦闘とともに敵の地対空ミサイルや敵航空機の脅威範囲内に進入して対地攻撃を行うことである。
 高い状況認識能力を持つのでF-15やF-16編隊を含めたミッション・コントロ-ルの中核として活用されている。F-22の実戦での運用が進み、かなりその卓越した能力を実感するに至り、その運用法が確立されつつあるとの強い印象を持った。
 第497ISRグル-プを研修する機会を得た。米空軍は全世界に6個のISRグループを編成している。各グル-プが支援する作戦部隊は別々で作戦所要に応じて保有するアセットも様々である。様々なセンサーや情報源からの情報を一次処理するDGS(Distributed Ground Station)は全世界に5個編成されており、ラングレー基地のDGSはDGS-2と呼ばれている。DGSは有人・無人の偵察機の映像や電子データなどを融合・一時識別する処理を行っている。
 これらの処理を行う隊員は18歳から20代の若い隊員であり、8カ月の基礎教育を受けた後、グループに配属されて数カ月の訓練を経て実戦配備され活躍している。ISRの成否はこうした若い人材の養成にかかっていると言っても過言ではないとの印象を強くした。

●ワシントン(統合参謀本部、空軍参謀本部、航空宇宙コンファレンス、佐々江駐米大使)   
 ワシントンでは昨年同様、防衛駐在官小川康祐1等空佐と廣田哲哉2等空佐に温かい出迎えを頂いた。日曜は朝からJAAGA名誉会員の皆さんとの嬉しい再会を果たし、恒例のエバハ-ト元大将(Gen.(Ret.) Ralph E. Eberhart)邸でのカクテル・パ-ティーには泉裕泰駐米公使も参加されていた。
 毎年恒例となっているJAAGA名誉会員との交流は、多くの方々の努力によって維持されているが、中でも多年にわたり積極的に中心的役割を果たしていただいているエバハート元大将にはJAAGA会員一同、心から御礼を申し上げる次第である。
 本年、JAAGAは米側の名誉会員として第5空軍司令官歴任者に加えて、JAAGA発足の1996年以降の太平洋空軍司令官歴任者を新たに対象として名誉会員委嘱を打診したところ、ベガード元大将(Gen.(Ret.) Begart)、チャンドラー元大将(Gen.(Ret.) Chandler)、ノース元大将(Gen.(Ret.) North)、カーライル大将(Gen. Carlisle)の4氏に同意いただき、夕食会の前に外薗会長による委嘱式を行った。会長からは新名誉会員受諾の御礼と今後のJAAGAの活動に対する大いなる貢献の期待が述べられた。(この他、アンジェレラ元中将(Lt.Gen.(Ret.) Angerella)が退官に伴って本年6月に名誉会員に就任している。)
 名誉会員受諾にあたっての各会員のウィットに富んだコメントを紹介しておく。
 ・(ベガート元大将)「名誉会員の打診を受けた時に最初に尋ねたのは「JAAGAA主催のイベントに参加できるのか?」ということだった(笑)。特に印象に残っているのは当時の5空軍司令官のへスター中将が交代する際に日本を去ることを非常に残念に思い後ろ髪を引かれていたことだ(笑)。」
 ・(チャンドラー元大将)「JAAGAは3スタ-の将官(5空軍司令官の意)にしか関心がないのかといつも思っていたが、4スターにも関心を向けてくれて感謝している(笑)。」
 ・(ノース元大将)「アンジェレラ元第5空軍司令官も名誉会員に就任したとは、新しい世代になったという歴史を示すものであり素晴らしいことだ(笑)。1996年に三沢にF-16を初配備した際に発生した事故に際して、鈴木三沢市長とエバハート5空軍司令官とが協力して解決に当ったことを記憶しているが、エアマンとエアマンの長期間にわたる良好な関係が実のある成果を生むということだと思う。」
 ・(カーライル大将)「JAAGAが日米空軍間の潤滑油として果たしてきた役割を高く評価するとともに、航空自衛隊と米軍の協力が日本という地理的範囲からシアターのレベルに拡大しつつある今日、太平洋空軍司令官経験者を名誉会員として加えて頂けるという適切な判断に敬意を表する。」
 名誉会員等との夕食会は、昔話に華が咲き、あっという間の楽しい一時であった。  ペンタゴンでは、統合参謀本部計画副部長(J5アジア担当副部長)、空軍参謀本部情報部長(A2)、運用部長(A3)、計画戦略部長(A5/8)を表敬し意見交換等を実施した。
 中国を中心とする関係国の情勢認識についての説明があり、中国の東シナ海/南シナ海における活動は不透明性を増しながら拡大してきているが、その背景には周辺諸国を脅威と感じ始めていることや自国の装備品の近代化やインフラが増したことがあげられる。中国は経済発展や軍事力の近代化が進み、歴史的な屈辱を挽回する自信と能力が大きくなってきていることに加え、中国を封じ込めようとしていると感じている。
 中国は、空中警戒管制機、対潜哨戒機、輸送機や空母搭載機等の装備の近代化を進め、かつて無いほどの海上監視と権益確保の能力をつけてきている。  現在中国が進めている南シナ海におけるインフラの拡大は、島の改良(land recrimination)ではなく島の造成(land creation)であり、中国が何をしようとしているのかよく注意しておく必要がある。また関係国が声を一つにして中国の行動に反対していくことが必要である。同時に、誤算による衝突事態が生起することを避けるためにレッドラインを明確に伝えている。中国の行動をしっかり把握して、世界中に知らしめてゆくことが重要であるとの認識が示された。
 厳しい予算環境の中で、米軍の近代化にも配意しながら、台頭する中国の脅威にアジアの国々との協力を念頭に対応しようとする米国の現状を認識した。

 9月14日から3日間にわたった航空宇宙コンファレンスはジェームス空軍長官(Ms. Deborah Lee James)の基調講演「Reinventing Aerospace Nation」の他、ウエルシュ空軍参謀総長(Gen. Mark A. Welsh) による「Air Force Update」、カーライル戦闘空軍司令官による「Fifth Generation Warfare」、ロビンソン太平洋空軍司令官による「You’ve Got to Have Friends; Building Pacific Airpower Partnerships」等の講演や各種パネルディスカッション等を聴講した。
 ウエルシュ空軍参謀総長によれば近々”Air Force Future Operating Concept”を発表するとのことであった(9月15日に発表された)。20年先を見通した将来における空軍の作戦コンセプトであり空軍発足時の基本的な任務である航空優勢、航空偵察、航空輸送、戦略空軍、協同航空防衛は本質的に変わらぬが、装備と技術の進化によって今日では、航空宇宙優勢、ISR、迅速かつグローバルな機動、グローバルな打撃、指揮統制という表現になった。20年後を見通すと、作戦分野の適応的コントール、グローバルで統合されたISR、迅速かつグローバルな機動、グローバルな精密打撃、多分野にまたがった指揮統制という方向に変化していくであろう。F-35、KC、LRS-Bの3つの重要プログラムは引き続き最も高い優先度であり、核の近代化には投資を行う必要がある。コンバット・レスキュー・ヘリは人員の救助という重要な任務を担うアセットで予算の確保が不可欠であり、E-8やEC-130、E-3の近代化は必須であると語っていた。
 カーライル戦闘空軍司令官は、我々は60年間以上航空優勢を維持してきたが潜在敵は我々を急追している。我々の技術的優位は脅かされつつありロシアと中国はあらゆる手段を用いて技術発展を図りその差は肉薄している。これからの戦いにおいては、スピード、レンジ、フレキシビリティの3つが重要な要素だ。72時間のATOサイクルが作戦の基本サイクルだが現場の状況は分秒単位で変化している。そこで重要なのはISRであり、状況に応じて任務を適応させていく柔軟性である。
 あるF-22は朝6時に基地を発進し、シリアでの多国籍軍機のエスコート任務に就いた後、F-16と会合してタイムセンシティブ目標に対して攻撃を加え、空中給油を受けた後、米のみのストライク・パッケージに合流してシリア内の防空施設に対して攻撃を加えるなど、12時間で6個の任務を完遂した。得られた情報を融合処理して識別し知識に変えていくのはDCGSで働く若者達の仕事である。彼らのスピーディで質の高い仕事が作戦テンポを支えており、これを進化させていくことこそ第5世代の戦い方である。
 忙しいスケジールを調整していただき佐々江駐米大使を訪問することが出来た。中国の南シナ海における活動等に関する米国内の雰囲気やその活動に対する対応の方向性等に話題が及び有意義な訪問となった。
 最後に今回の訪問に際してご支援を頂いた空幕の関係幕僚の皆様、事前の調整から現地での案内まで多大なご支援を頂いたPACOM司令部連絡官の齋藤1陸佐、PACAF司令部連絡官の竹岡1空佐、田中2空佐および猪山2等空佐、防衛駐在官の小川1空佐と廣田2空佐、そしてつばさ会及びJAAGA会員の皆様に厚く御礼を申し上げる次第である。(米沢理事記)  

 

2015年度「つばさ会/JAAGA訪米団」 AFA総会参加等報告