今年度の「つばさ会/JAAGA訪米団」は、9月7日、真珠湾・ヒッカム米軍統合基地からスタートした。本年度は、外薗健一朗JAAGA会長を団長に、永岩顧問、堀顧問、森下、渡邊、小野田、石野各理事の計7名のメンバーにより、米太平洋空軍司令部(ハワイ州ホノルル)、第9偵察航空団(カリフォルニア州ビール空軍基地)、統合宇宙コマンド/第14空軍(同州バンデンバーグ空軍基地)を訪問し、ワシントンDCにおいてJAAGA名誉会員との交流行事を行うとともに、統合参謀本部、空軍参謀本部、国際戦略研究所(CSIS)を訪問し、空軍協会主催の航空宇宙コンファレンスに参加した。それぞれの訪問先において大変有意義な意見交換を行い、相互の友好と信頼の絆を深め、また米空軍の現状と課題、今後の動向について知見を得ることができた。
 昨年9月の訪問以来、10月には日米2+2合意、12月にNSCの設置、安全保障戦略、防衛計画の大綱、中期防の策定、本年4月には新たな装備移転3原則の閣議決定、7月には集団的自衛権の行使容認などを含む安全保障法制の整備に関する閣議決定など、日本の防衛政策及び日米関係をめぐる積年の課題は大きな一歩を踏み出した。とは言うものの2+2合意内容に見られるとおり、今後我が国がなすべき事項は数多く、これから相当な時間とエネルギーを要することは言うまでもない。その一方で、世界は急速に、そして大きく変化しつつあり、アジア太平洋地域のパワーバランスの維持と不安定化の防止には細心の注意が必要である。訪米団は、軍事予算の縮減に伴う米空軍の対応、特に7月に米空軍が発表したいわゆる「30年戦略」の具体的な姿と今後の方向性、日米防衛協力深化に際しての空軍種間の具体的な課題や協力のあり方、厳しさを増す東シナ海や南シナ海に関する状況認識と対応等を主要なテーマとして意見交換に臨んだ。
 太平洋空軍が直面する各種の挑戦には、自然災害、テロ・組織犯罪、麻薬・人身売買、領土・資源紛争、興隆するパワー、接近拒否/地域拒否(A2/AD)などのほかに広範な担当区域や地域の歴史における各国の交錯の克服という課題があるという。同軍はこうした挑戦に対して、地域諸国の防衛能力構築、統合防空及びミサイル防衛(IAMD)、戦力投射能力、軽快柔軟な指揮統制、強い兵士の育成を重視している。カーライル司令官は10月に戦闘空軍(ACC)司令官に転出され、後任にはACC副司令官のローリ・ロビンソン中将 (Lt gen Lori Robinson)が着任される。同中将は要撃管制官出身であり米空軍の女性では現補給コマンド(AFMC)司令官に続いて2人目の大将となる。
 米空軍は、予算縮減のために高高度有人偵察機のU−2を退役させてその任務を無人機のグローバル・ホークに負わせることとしている。同機は世界をカバーする通信ネットワークによって世界各地で運用することが可能であり、米国内、欧州などのほか、アジアではグアム及び三沢基地が運用拠点となっている。同機の操縦は様々な機種の出身者だけでなく、直接無人機操縦課程を経て資格を得た者が3割ほど含まれているとのことであった。
 KC−135のパイロットから無人機操縦教官に転じた大尉に、KC−135の部隊に戻りたくはないかと尋ねたところ、無人機の分野は任務の重要性とともに将来性があり、大いにやりがいを感じているとのことだった。部隊整備を越える整備は製造会社が運用基地に拠点を置いて支援しており、重大な整備はビール基地で行っている。
 退役が予定されているU−2の着陸を目前で見る機会を得た。U−2は着陸速度が180kmほどで胴体下の主脚以外に翼下の脚を持たずグライダーのように着陸する。着陸訓練の際にはスポーツ仕様の一般車両がタクシーウェイに待機していて、U−2が滑走路に進入すると同時に一気に加速して滑走路に進入、U−2の背後を追跡しながら必要なアドバイスを与える。追跡する車の余席に座って200km近い速度でU−2を追う。筆者には車の加速と運転の荒さが恐ろしかった、元戦闘機パイロットの某研修員は「これが本当のモーボだなぁ」と妙なところに感動していた。
 ISR(情報、監視、偵察)から宇宙へと研修は進む。バンデンバーグ基地と言えば宇宙ロケットの発射や弾道ミサイル試験などで有名な米軍の宇宙戦力の拠点である。統合宇宙コマンド兼ねて第14空軍司令官は、元第5空軍副司令官のジョン・レイモンド中将(Lt. Gen. John Raymond) である。カリフォルニアのワイナリーのブドウ畑にしつらえたディナーやご自宅(官舎)での朝食をはじめ、殆どの時間を訪米団とともに過ごして頂いた。米国の宇宙に関する圧倒的な優位は、中国の技術的急追や打上げロケットのロシアへの依存など、競争が激しくなっており、宇宙空間には1,300基の衛星を含む20,000個以上の物体が存在して非常に込み合った状況になっているという。今後は更に超小型の衛星が多数軌道上に打ち上げられることが予想される。「これまで宇宙は常にスイッチ・オンの状態だったが、今後は突然スイッチ・オフに陥る可能性がある。」という司令官の警告が強く記憶に残った。宇宙における優位を維持するには同盟国との協力関係を密にして資源の有効活用を図る必要性があるとして、日本との協力強化に大きな期待を寄せていると語った。実際、衛星を保有及び運用する各国及び民間企業とは協定を結んで観測データの相互利用等の協力関係を構築している。宇宙監視及び運用を司るオペレーション・センターでは、デブリとの衝突予測を3日前までに衛星の運用者に通知し、軌道変更などの評価も行っているとのことであった。このほか、太陽の活動などによる電磁環境に関する観測・分析も行っている。
 ワシントンでは6月に着任したばかりの防衛駐在官小川1佐と昨年もお世話になった廣田2佐に温かい出迎えを頂いた。一夜明けて快晴の日曜は朝からJAAGA名誉会員の皆さんとの嬉しい再会を果たし、夕刻のエバハート元大将邸でのカクテルパーティーには佐々江大使にもお出で頂いた。「航空自衛隊幹部と米空軍幹部が長期に亘り、かくも親密に交流を重ねていることに驚きとともに感謝の念を禁じえない。こうした交流が両国の信頼関係を益々緊密なものにすることを確信する。」と大使からスピーチを頂いた。今年は航空自衛隊創設60周年であり、本交流の草分けである鈴木昭雄元空幕長にご訪米頂いた。鈴木空幕長ご在任当時の第5空軍司令官のデービス元大将にもご出席頂いて華やかなディナーとなった。「老兵はただ消え去るのみと言われるにもかかわらず、米空軍の皆様にただ一言御礼を申し上げるべく参上した。航空自衛隊が今日あるは米空軍のおかげであり、60周年記念式典において齋藤空幕長が言及したとおりである。それに応えてアンジェレラ第5空軍司令官から両国の絆について力強い言葉を頂いたことに感謝する。空自はまだまだ力不足だがサムライ魂をもって日々努力を重ねているので今後も益々のご支援、ご協力をお願いしたい。」と力強いメッセージを発せられた。これに応えてデービス元第5空軍司令官は、「かつてマンスフィールド大使が日米関係は米国にとって最も重要な関係だと言ったが私も全くそのとおりだと思う。第5空軍司令官在任中に困難に直面した際に、二人で緊密に連携して対処したことが何度もあったが、鈴木空幕長はまさにサムライであると感じた。日米関係の強固さは、東北大震災における「トモダチ作戦」にみられたとおりである。昨年末に日本が新たな安全保障戦略を策定して新たな一歩を踏み出したことを歓迎する。」とコメントされた。毎年恒例となったJAAGA名誉会員との交流は、様々な方の努力によって維持されているが、中でも多年にわたって積極的に中心的役割を果たしていただいているエバハート元大将には心から御礼を申し上げる次第である。
 ワシントンでは、統合参謀本部計画部長(J5)、空軍参謀本部情報副部長(A2)、運用計画部長(A3/A5)、戦略部長(A8)を表敬した。台湾、南シナ海、日中の領土・資源をめぐる係争の3点がアジアにおける米国の焦点であり、米国の軍事プレゼンスを維持するためには拠点となる日本、特に南西諸島が不可欠との共通認識が示された。リバランスの重要拠点は日本、韓国、アラスカ、ハワイであり、正面戦力の地域へのローテーション配備は予算が厳しい中にあっても維持されるだろうとのことであった。また、弾道ミサイル等の脅威に対して基地の復元力(Resiliency)に対する要求が高くなっており、日本には大きな期待を寄せているとの発言があった。多くの訪問先やコンファレンスで ”Resiliency” という単語が多く聞かれたが、A2/ADによって被害が避け得ないことを前提に、基地機能やネットワークなどのインフラについてハード、ソフト両面での復元力の整備が焦点となっている点が印象的だった。
 航空宇宙コンファレンスはジェームス空軍長官(Ms. Deborah Lee James)の基調講演の他、ウエルシュ空軍参謀総長(Gen. Mark A. Welsh) による「空軍の現状と将来」、「戦闘クラウド」、「F−35の開発状況」、「戦闘空軍の現状と課題」、「太平洋空軍におけるイノベーション」等を聴講した。いずれの講演においても、世界情勢は今後大きく変化するであろうこと、予算の縮減への対応とともに米空軍は大きく変革する必要に迫られていること、その変革を支えるのは空軍に所属する個々人であること等が強調されていた。空軍の中心的任務は、航空宇宙優勢、ISR、グローバルな機動、グローバルな打撃、指揮統制であり、次なるステップは、必須の3大プログラム(F−35、KC−46、次期長距離爆撃機)を維持し、核兵器の近代化計画を策定し、シミュレータをネットワーク化する等の効率化を進め、インフラを強化するとしている。空軍が担任する3つの分野(空、宇宙、サイバー)での競争は激しくなっており、サイバー分野では第24空軍によるNSA、サイバー・コマンド、地域軍の支援、サイバー分野に変革をもたらすイノベーション・センターの設立、サイバーの専門家養成が重点であり、ISR分野では専門部隊として第25空軍を設立、サイバーと融合したイノベーション・センターを作り、ISR部隊を再構成するとしている。また、戦略的なパートナーシップの構築については、持続可能な訓練ローテーションの構築とともにレッドフラッグ演習を中心に据えていくとのことであった。カーライル太平洋空軍司令官からはパートナーシップの代表例として、PACAF司令部で勤務する連絡官の谷川2佐(本年8月に転出)と能勢2佐が紹介され、二人の活躍のおかげで日本との相互協力が極めて密接に行われていると力強いメッセージが発せられた。また、PACAFが抱える第1の課題は、地域諸国の信頼をどのようにして勝ち取るか、第2の課題は戦力量、即ち戦力が小さくなれば圧倒的な優勢を失う恐れがあること、第3の課題は即応性の確保であり、第4は柔軟かつ軽快な指揮統制の実現であると述べた。中国による防空識別区設定に関して航行の自由の確保が今後一層重要な任務となること、日本の集団的自衛権の行使容認によって両国関係が一層進展するであろうことにも言及された。
 最後に今回の訪問に際して事前ブリーフィング等を頂いたた空幕の関係幕僚の皆様、事前の調整から現地での案内まで多大なご支援を頂いたPACAF司令部派遣幕僚の竹岡1佐と能勢2佐、防衛駐在官の小川1佐と廣田2佐、そしてつばさ会及びJAAGA会員の皆様に厚く御礼を申し上げ筆を置くことにする。 (小野田理事記)

 

平成26年度「つばさ会・JAAGA訪米団」報告