平成25年度の「つばさ会/JAAGA訪米団」は、航空自衛隊と米空軍の友好親善を推進するとともに米空軍の実情を研修することを目的として、外薗健一朗元空幕長を団長に、永岩JAAGA副会長、堀同副会長、森下、小野田同理事の5名の訪米団が、9月8日から同19日まで米国を訪問した。例年、米空軍協会(AFA : Air Force Association)の年次総会への参加に併せて米空軍基地等の研修を行っているが、今年度は9月16日から18日の年次総会に先立って、米太平洋空軍、APCSS(Asia Pacific Center for Security Studies)、日本総領事館(以上、ハワイ州ホノルル)、第33戦闘航空団(フロリダ州エグリン)、国防総省、日本大使館、スティムソン研究所(以上、ワシントンDC)を訪問した。それぞれの訪問先において、日本勤務経験のある米空軍現役高官、JAAGA名誉会員の歴代第5空軍司令官との旧交を温めるとともに、要職にある現役高官、日本及びアジア研究者、AFA会長等と有意義な意見交換を行い、相互の友好と信頼の絆を深め、また米空軍の現状と課題、今後の動向について知見を得ることができた。

 航空機がホノルルに到着すると、雲一つない爽やかな晴天とともにカーライル太平洋空軍司令官自ら、日曜日にもかかわらず訪米団を出迎えていただいた。さらに司令官には夕刻も米太平洋艦隊司令官専用のボートで真珠湾内を案内していただいた。湾内でひと際目を引いたのが、SBX (Sea Based X-band Radar)と呼ばれる弾道ミサイル対処用の海上配置型Xバンド・レーダである。米海軍が運用しており、必要に応じてタグボートでけん引して海上を移動することができる。橋脚部分を海中に沈めてプラットフォームが安定するように設計されているとのことであった。FPS-5と形は異なるが、その巨大なレドームは優れた探知性能を想起させるものだった。
 月曜日の朝一番から司令官に表敬の後に、司令部幕僚在席の中を司令官自らブリーフィングしていただいた。表敬の際には司令官から我が国周辺の情勢認識、我が国の国内事情、日米間の連携、日米共同訓練の課題などについて矢継ぎ早の質問をいただくとともに、ブリーフィングでは太平洋空軍の置かれた環境、戦略、活動、日米共同訓練の状況、各国との連携の現状、米国のリバランスの状況などについて説明いただいた。意見交換においては、総隊司令部横田移転後の相互連携について、更なる情報の共有化が必要であること、ISR能力、F-35、空中給油能力などは重点的に注力すべきことなどが話題となった。また、米国の予算強制削減の影響について、アジア太平洋地域は優先度が高いので戦力規模や共同訓練などは維持していきたいと表明された。
 ホノルルでは、米太平洋軍隷下のAPCSSを訪問した。ここはアジア太平洋諸国の政府関係者等に対して安全保障に関する知識、課題対処の技能、人的ネットワークを修得する場を提供し、地域の協力関係拡大に寄与することをめざしており、期間1か月程度のプログラムを年間6コース程度実施している。日本からは外薗団長をはじめ、不定期に防衛省の内局職員及び自衛官などが参加してきたが、さらに多くの要員に参加してほしいと要望された。重枝総領事への表敬では、米軍とは大変に良い関係を維持しており、米軍指揮官の積極的な交流姿勢に感謝の意を表明された。総領事主催の夕食会にはカーライル司令官も出席され、席上で領事館主催の月見の会に太平洋空軍の音楽隊を派遣してほしいとの要請に対して司令官から快諾をいただいた。また、総領事から日本と南太平洋諸国との関係緊密化が必要との意見にカーライル司令官も同意見だと意気投合した。
 滞在間、米太平洋空軍連絡官の谷川2佐、能勢2佐には、準備段階から大変なご尽力をいただき、感謝申し上げたい。

 ホノルルを水曜の早朝に出発、次の目的地であるフロリダ州エグリン空軍基地に到着したのは、木曜日の深夜だった。途中、航空機の遅れで乗継がうまくいかず、ヒューストン空港で半日以上を費やしたが、目的地で出迎えてくれた米空軍の女性隊員二人の姿を見ると、訪米団の顔は笑顔に変わり、移動の疲れもどこへやらとばかりにジョークが飛び交った。
 翌朝、第33戦闘航空団司令部に向かうと、朝方にテキサスから飛来した教育訓練コマンド司令官で元第5空軍司令官のライス大将が我々を待ち受けていた。ライス大将は、10月に退官されることが決定しており、多忙な中を訪米団のためにわざわざ駆け付けて下さったのだった。33空団司令のカンタベリー大佐は、かつて航空自衛隊50周年の際に飛来したサンダーバーズの5番機であり、ライス司令官を交え団司令からブリーフィングを頂いた。33空団は、2011年7月の初号機受領以来、約2,200ソーティ、3,000時間の飛行実績を重ね、約70人のパイロットと約800人の整備員を養成した。第5世代機は複雑だと考えるのは誤解で、実際の操縦は極めて容易であり、多くをシミュレータで習得可能とのことであった。
 実機、整備施設、教育施設と研修したが目を見張ることばかりであった。実機は、3次元整形された複合材等によってステルス性を高めており、機体の上下面に配置された計6個のIRカメラによってHMDの360度の視界が提供される。アンテナは機体表面に配置されていて突起物はない。機体内の弾薬スペースには、AMRAAMやJDAMが搭載される。
 整備施設では、温度や湿度の制御ができる整備ハンガーが用意されており、故障発生の可能性を事前に予知するための環境試験ができるようになっている。整備員は、整備データ、補給データ、マニュアルなどがすべて記録されるALIS(Autonomic Logistics information System)を用いて整備補給を行う。このシステムは、単にデータを集約するだけでなく、飛行中の機器の作動データやスイッチ操作など、着陸後にシステムに入力されたデータから故障の兆候を分析して、整備員に部品の信頼性交換や必要な整備指示を出すという画期的な機能を有しているとのこと。我が国の整備員の教育はこれからだが、マニュアルを含めて全て英語なので航空自衛隊にどう適合させるかが課題である。教育講堂の座学教場は、コンピュータ画面で教育が行われ、部品の配置やアクセス、整備要領などが3次元で表示される。兵装実習教場には、A、B、C、各タイプの兵装が実習できるよう実機のモックアップが配置されており、相互運用能力を修得できる仕組みになっている。操縦用のシミュレータは現在5基だが、10基までのスペースが確保されており、将来の教育所要増に応じて増設するそうである。
 F-35の導入は、空自の能力面だけでなく、整備補給のコンセプトを抜本的に変更することになる。ALISという各国、各軍種統合のコンピュータ・システム/データベースがそのキーとなるとともに、教材、整備マニュアル、運用解析まですべて英語で処理されるこのシステムを、空自の現場部隊にいかに適合させるかが課題である。現在のところ、米空軍自身も運用初期段階であり、ALISを使い込んでデータを集積し、必要な修正を加えている段階であるように見受けられた。

 ワシントンでは、JAAGA名誉会員の米側退役将官に温かく迎えられ、恒例となったJAAGA主催の夕食会には、名誉会員ご夫妻に加えて日本勤務経験のある現役将官ご夫妻、さらにノートン・シュワルツ前参謀総長ご夫妻も出席して30名を越える賑わいとなった。会食の最後にマイヤーズ元統合参謀本部議長が行ったスピーチを、本報告を読んでいただいたみなさんと共有したいと思う。紙面の都合上、一部のみとさせていただくことをお許しいただきたい。「北東アジアにおける不透明不安定な状況下、今ほど日米関係が重要である時はない。その中で特筆すべき事項が3点ある。第1点は、NSCの設立によって安全保障の議論が国家レベルとなり、情報が共有され、自衛隊のリーダーに発言の場が与えられるということ、第2点は、情報保護法制定によって情報の共有が進むということ、そして最大の点は、憲法または法律改正によって集団的自衛権行使が可能となることである。これら3つの事項は両国の関係にとって決定的に重要な事項である。先日、自分ほか退役軍人などが佐々江大使公邸に招かれた。席上、我々がNSCについて喜んでアドバイス役になること、自分達が自衛隊の退官将官と長きにわたって良い関係を築いていることを強調した。先週、空幕を訪問した際、偶然JAAGA訪米団が空幕からブリーフィングを受けている場面に遭遇した。次世代を担う若い世代とJAAGAがともに真剣な準備を経て訪米されていることを知り、一層の信頼感を感じた次第である。ありがとうJAAGA。」

 3日間にわたる米空軍協会のコンファレンスは、地下階に約5万フィートの展示場が設けられ、有人機、無人機、ISR関連装備品、サイバー関連装備品など様々な展示が行われたが、規模的には昨年よりやや縮小された感じを受けた。地上階では大小の会議場において、様々なテーマで発表・質疑応答が活発に行われた。最も多数の聴衆を集めたのはウェルシュ参謀総長の講演で、エアマンこそが空軍の力の源であり、空軍のコンセプトを実現する主体であるということを、多数の模範隊員の物語を紹介しながら、ユーモアを交えつつ聴衆の感情と理性に訴えかけ、聴衆を魅了した。会議全体としては、予算強制削減の影響について言及する発表や質疑が多かったこと、そして予算削減は空軍が新たなイノベーションを起こさねばならない挑戦の場なのだとするプラス思考が語られていたことが大変印象的であった。
 会議の合間には、今回初めて、在ワシントンのシンクタンクの研究者との意見交換を行った。先方からは、NSCの設置、新たな防衛計画の大綱・中期防の優先事項、日米協力の課題などについて質問があり、当方からは米国の予算削減の影響、エアー・シー・バトルの状況について質問を行い、有意義な意見交換となった。国防総省では、A2部長のオットー中将、A3/A5部長のフィールド中将(前5空軍司令官)、統合参謀本部J5副部長のスティルウェル少将を訪問し、地域情勢、日米共同の在り方などについて意見交換を行った。佐々江大使への表敬では、JAAGAと米空軍退役将官の交流について、もっと広報するべきだと積極的なご意見を頂戴した。

 JAAGA名誉会員ほか米空軍との交流に際しては、エバハート大将に一方ならぬ御調整を頂き、またご夫妻にご自宅でのカクテル・パーティにご招待いただいた。ライト中将ご夫妻にも夕食会後に新築のご自宅にお招きいただき夜半までお世話になった。訪米全般にわたって、米大使館防衛駐在官の引田将補と廣田2佐には諸調整からアテンド、ホーム・パーティに至るまで多大なるご支援を頂いた。紙面を借りて一言御礼を申し上げたい。終わりに今回の訪米に際して、ご支援ご協力いただいた関係者各位のご厚誼に心から厚く御礼を申し上げ、報告の締めくくりとする。
 (小野田理事記)

 

平成25年度「つばさ会・JAAGA訪米団」報告