みなさん、こんにちは。本日は、航空戦力と航空自衛隊のこれからの挑戦について、お話しさせていただきます。この機会に浴することができますことは、このうえない喜び、光栄であります。

 ライト兄弟が世界初の動力飛行を成し遂げて今年で100年になりますが、航空戦力がこれほどまでに重要になることを想像した人が、どれほどいたでしょうか。今や航空戦力は、国家の安全保障にかかせないものになっています。それは「イラクの自由作戦」においても実証されています。激動する環境下、将来にかけて存在するであろう脅威を克服するためには、今こそ航空戦力の発展を見直し将来を見据えることが非常に大切だと考えます。 今回のGACCは、航空戦力の将来及びこれからの課題・挑戦について意見交換のできる素晴らしい機会だと思います。意見交換、また、お互いの懸念事項等を話し合うことによりこれからの課題の克服、国際協力につながるのです。この場をお借りいたしまして、GACCの開催にあたって御尽力されたスタッフの方々、リーダーシップを発揮されたジャンパー大将に対しまして、改めて感謝申し上げます。 本日は、4つのことに関して述べさせていただきます。

  まず第一に航空戦力の発展及び航空自衛隊について。第二に、新しい脅威の出現、また、それが航空自衛隊の役割の拡大にどのようにつながっているのか。第三に我々が拡大する任務・活動を通して、どのように、安定した安全保障環境の創出に貢献しているか。最後に、将来の課題についてお話しいたします。これを機会に益々議論が盛んになることを願います。

 航空戦力は、その出現以来、急速に発達し、従来のより試験的なものから、軍事力の中核を担う必要不可欠なものへと進展しました。国家の安全保障には欠かせない戦力であり、最も有用な戦力のひとつであります。ライト兄弟の初飛行から間もなく、1911年のトルコ・イタリア戦争では、非常に原始的ではありますが航空機が軍事偵察用に使用されました。 第一次世界大戦では、航空戦力はまだ充分には使われませんでした。しかしながら、以後第2次大戦までの20年間、航空戦力は飛躍的に発展しました。ドゥーヘェやミッチェルに代表される航空戦力の擁護者たちは将来におけるその有用化を予見しました。航空戦力の有効性が実証されたのは第二次大戦のときです。ドイツ軍の電撃戦・戦略爆撃により、戦争時の航空戦力の可能性が示され、また、同時に限界も示されました。
第二次大戦後においては、航空戦力が強調されましたが、その後、戦略航空と戦術航空の違いがはっきりしなくなります。

 近年の航空戦力の発展は非常にめざましいものであります。ドゥーヘェが予見したように、航空戦力のみで戦争に勝つことも可能に思えるかもしれませんが、やはり現実は、ミッチェルの書いたとおり他軍種との協力が必要です。現在では、航空戦力の将来の可能性が、明白になってきています。

 スライドには、航空戦力の長所及び短所が挙げられています。短所が存在するにもかかわらず、「イラクの自由作戦」等に代表される現代戦において実証されているように、軍事作戦が成功裏に終わるためには、航空戦力が必須なのです。

 日本における航空戦力の発展を見てみますと、第二次大戦前と同大戦後では、明白な違いがあります。戦前においては、日本の航空戦力は欧州と同時期に発展したものの、旧帝国陸軍と帝国海軍による役割に限られていました。
1910年、徳永大尉が日本初の飛行を成功させて以来、日本の航空戦力は異なった教義のもと、発展していきました。しかしながら、航空戦力は有効な戦力にはなりませんでした。旧日本軍が解体され、日本は米軍により占領されました。第5空軍による防空が航空自衛隊発足の1954年まで続くのです。米空軍が独立した軍種として立ち上がっていたことが、その後の航空自衛隊の発展に大きく影響します。
航空自衛隊は、創設時150の航空機とたった6000人により構成されていました。極東空軍の航空機と装備品を数多く引き継ぎ、米空軍の協力の下、航空自衛隊員の訓練が行われたのです。現在に至っては、航空自衛隊は専門的なエアマンの集団に成長し、F−15、F−2,F−4等、計400機の航空機と、5万人のエアマンにより効果的な防空戦力を構成しています。

 一般的に申し上げますと、航空戦力は、地理的特性、国力、安全保障政策に基づく、国家の航空戦略と教義により組織され、成長します。日本の基本的な防衛政策は、憲法、国連憲章、そして日米安全保証体制により成ります。この3本柱のもと、航空自衛隊は日本の領空及びその近傍を主に防衛するという、防勢対航空(DCA)の任務を遂行する戦力として発展してきました。
加えて、日本の地理的特性が大きく防衛戦略及び教義に影響しています。その結果、日本の航空戦力が現在のように発展してきたわけです。
日本の防空を主に担当する航空自衛隊は、大きく分けて以下の5つの集団に分かれています:航空総隊、航空支援集団、航空教育集団、航空開発実験集団及び補給本部。

 日米安全保障体制は、アジア・太平洋地域の平和と安定の重要な要であり、軍事面も含め、さまざまなレベルでの協力が大切であることは言うまでもありません。
航空自衛隊は米空軍と共同訓練を定期的に実施しておりますが、私は、日米双方の技術向上のために非常に有効なものであると確信しております。代表的なものを挙げますと、コープエンジェル、コープサンダー及びコープノースであります。
将来に渡り私たちが直面する安全保障環境は、予測不能性・不確実性で言い表すことが出来ます。国際間の交流が進む一方で、脅威があらゆる面で拡大してきています。さまざまな集団及び個人、方法により、国際的・地域的なテロリズムが発生しており、大量破壊兵器の拡散が懸念されています。この状況下において、安全保障政策が「抑止と対処」から「予防」に変化してきています.

 軍事の役割と任務が拡大しているなか、国力の重要な戦力のひとつである航空戦力は、その長所と短所を見極めつつ、適切な役割を担うべきだと考えます。航空自衛隊に関して言えば、脅威の形・状況の変化に対応していくなかで、その役割と任務は拡大し、軍事・非軍事に関わらずこれからも新しい役割が増えていくことでしょう。

 国際情勢と冷戦後の安全保障環境の変化のともない、1996年「防衛計画の大綱」が改正されました。現大綱のなかでもっとも大切なところは、自衛隊の新しい役割として日本の防衛に加え、「大規模災害への対応」と「より安定した安全保障環境の構築」が明記されたことです。現大綱は、自衛隊の平和と安定に対する貢献と国民からの期待、また、冷戦後の国家安全保障の指針を示すものになっています。
日本では、近年、国際平和協力法(PKO法)を皮切りに、自衛隊の国際協力業務参加を可能にする法整備が進められています。1992年の制定されたPKO法は日本にとって歴史的なものであり、これにより、より能動的に地域の平和と安定保持のために貢献できるようになったわけです。これにより、国連平和維持活動(PKO)と人道的な国際救援活動(IHRO)が可能になったわけです。

 2001年には、対テロ特別措置法が制定されました。我々日本国民は、国際的なテロリズムを国際社会のみならず日本に対する脅威と捉えています。
これらの法律により、航空自衛隊は、空輸支援を中心に国際的な対テロ作戦に支援を提供しています。PKO及びIHROに参加する主目的は国際社会の平和と安定の維持・促進であります。今まで、航空自衛隊はカンボジア、モザンビーク、ゴラン高原、東チモールの各地でC−130による空輸支援を実施してきました。
2001年10月、対テロ特別措置法制定以前、PKO法に基づいて、アフガニスタン難民に対する救援物資を空輸しました。今年3月には、イラク被災民に対し航空自衛隊としては初めてとなる政府専用機による救援物資の空輸を実施しました。
1998年10月から11月にかけて、ハリケーンの被害を受けたホンジュラス政府の要請により同国に医療器具を空輸しました。2001年1月には、大地震に見舞われたインドに対し救援物資を空輸しています。

 9月11日に起きた米国での同時多発テロにおいては、日本政府が迅速且つ包括的な措置を執り、対テロ作戦に協力しました。間もなく、対テロ特別措置法制定により後方支援及び捜索・救難の面において自衛隊が活躍しました。また、「自由の空輸作戦」の名のもと、米軍への支援を始めました。
人道的な国際救援活動においては、アフガニスタン難民に対してC−130機による空輸を実施しました。
このほか、警戒監視体制の強化、情報提供等の活動にも従事しました。昨年開催されたサッカーのワールドカップにおいては、警察・大韓民国空軍とも協力し、情報交換等の活動をしたところです。

 任務の拡大に伴い、航空自衛隊はさまざまな課題に直面しています。また、将来に渡っても、これらの課題には直面し続けることでしょう。私は、これらの課題についてお話させていただくことは、今日お集まりの皆様にとりましても有益であると考えます。
端的に申し上げますと、われわれの課題は安全保障の分野における伝統的・非伝統的の狭間で、どうバランスをとっていくかであります。このバランスは、航空戦力の教義、作戦、訓練および技術開発に深く関わるものであります。また、IT技術の進展に伴う軍事情勢の変化は、この課題をさらに複雑にするものです。
さまざまな脅威に対応する必要性があることから、軍事的・非軍事的活動のバランスを見極めることが困難になっています。破壊力は軍事力の基本的性質で普遍でありますが、今日の軍事力には、平和構築・平和維持等の建設的な力をもっており、近年の作戦等でも実証されております。

 軍事は伝統的に、外からの脅威に対応して、国家の安全を保証することに従事してきました。しかし、現在の情勢では、ひとつの国家において脅威が発生し、隣国に波及、結果的に地域全体を脅威にさらすことになるのです。そういう事態が発生した場合、被害を被った国家に対し、介入すべきか非介入かの一線を画すことができにくくなります。加えて、国際テロ活動及び大量破壊兵器の拡散はひとつの国家では対応できません。この点からも、国際間協調は必要不可欠であります。
国連の軍事介入が限定されているため、国家の安全保障の基礎は軍事同盟にあると言えます。アジア・太平洋地域においては、米国を中心とした2国間の軍事同盟が同地域の平和と安定に寄与してきました。多国間の安全保障フレームワークとしては、ASEAN地域フォーラムなどが構築されつつあります。2国間同盟関係及び多国間協力関係は、いわば多層構造にわたる政策のなかで共存しており、どちらがより権力を発揮するのか、そのバランスがこれからも議論をまきおこすでしょう。

 事例においても実証されているとおり、将来の軍事作戦においては、共同作戦がその規範になることが予想されます。しかしながら、各軍種間の相違、また、環境の相違等を考えますと、どの程度まで共同作戦が追求されるのかが大きな問題です。その一方で、非軍事的組織間の協力が新たな脅威に対応するためには必要不可欠であります。多方面にわたる活動の一方、軍事・非軍事組織がどうバランスを取って、協力していくのかが大きな課題のひとつです。

 いつ戦争が起きるかを予測し、それに対応していくのは至難であります。航空戦力を開発し、先導する立場として、私達は意見交換し、懸念事項について話し合うことにより、新たな分野への挑戦を履行することができるのです。これにより、我々の国家の平和と安全保障が可能になるのです。
航空自衛隊は来年50周年を迎えます。いままで、自衛隊は充分な航空戦力をてがけて来れたと思いますが、米国空軍の公式・非公式の御支援がなければ、ここまでの発展は無かったでしょう。未だ航空自衛隊には、更に効率性・有効性を求められている分野があります。

 我々は、以下の事項に対して今まで同様、将来にわたっても尽力していく所存です。 経空脅威に対応しうる、レベルの高い防空能力の維持。 新しい脅威に対応しうる能力の開発・維持 平和と安全の構築に資するため、多国間の協力関係への積極的参加 本日は、たくさんの方々の前でお話をさせていただき、誠に有り難うございました。GACCを通して、また、日米間の協力体制を通して、相互理解と協力が深まり新しい世界情勢に対応するべく、協力関係をこれからも持ち続けることができることを切に望みます。 長い間のご静聴、どうもありがとうございました。  (平成15年9月 ワシントンDCで講演)

 

津曲空幕長、GACCで講演