1 はじめに
 空自がF-XにF-35を選定された後でもありますし、定された後でもありますし、皆様の関心も高いのではないかと思い、第5世代戦闘機を演題に選びました。第5世代戦闘機の定義については未だ確定したものはありませんが、ここでは第5世代戦闘機と呼ばれている戦闘機の特長、能力、役割可能性(アドベンチャー)等について、F-22の部隊長経験及び搭乗経験を元にお話させて頂きます。

 2 第5世代戦闘機の特長と戦術戦闘の改革
 第5世代戦闘機の特長の第1はステルス性であり、更に、高度なセンサー、統合航空電子機器、情報融合化システムによる広範囲な情勢認識(Situation Awareness)能力も特徴的です。また、航空機整備等の維持要領についても高度に進化している。特長の第2は、高度な作戦支援能力とスーパークルーズ能力が挙げられます。

 (1)ステルスはシステム
 まず、ステルス性については、高度な数学と塗料の組合せと設計が重要です。機体形状は非常に特長的ですが、その数学的形状が機体設計形状にぴったり整合する必要があります。そして、航空機搭載の様々なシステムを運用しながら、レーダーにどのように映らないようにするのかを含めてステルス性について、システム全体で検討して行く必要があります。最初にステルス性が適用された航空機はF-117ですが、以降B-2、F-22、F-35と来ました。それぞれ航空機が変わるにつれて、ステルス性は経験を得て向上し、整備要領も段階的に向上してきました。  ステルス航空機を運用する時の最重要なことは、ステルスはシステムであるということを忘れてはならない。ステルス性は、レーダーでの戦闘、兵器での戦闘やアビオニクスでの戦闘と一緒に機能するため、任務完遂上の重要な評価要素です。

 (2)SA能力によるパイロット・ワークロードの軽減
センサーとしては、レーダーによるアクティブ受信の他、赤外線等のパッシブ受信がある。また、搭載アビオニクスとしては、RWR(レーダー警戒受信機)、火器管制装置、ECM機器等も含まれます。 F-22以前の航空機は、個々のアビオニクス・システムを専門会社が個別に受注・製造し、納入後、機体に組込み、全体を組立てる方式を採っており、この方式をフェデレート・アーキテクチャー(Federate Architecture)と呼んでいます。この方式の航空機では、例えば、ECM機器とレーダーやRWRとの干渉或いはサポートシステム等の不作動等故障や不具合が発生するたびに、個別に対処する方式でした。そこで、この方式とは対極的な、個々のアビオニクス・システムを統合する考え方としてインテグレート・アーキテクチャー(Integrated Architecture)方式が考案されました。この方式では、収集情報を同一コンピュータ内に取り込み、データ融合してパイロットに一番分かり易い方法で、情報表示するシステムとなりました。既存機では、レーダー操作、IFF識別、RWR情報の取り出し、ウイングマンの情勢認識交信、そして、これらを基にした戦術判断・決心をパイロットは操縦しながら、全て自分でしなければなりません。第5世代戦闘機(インテグレート・アーキテクチャー方式)では、これらのパイロット・ワークロードを全てシステムがやってくれる訳で、例えば、ウイングマンと情勢認識に関して交信する必要はなく、自機の目標情報を僚機間のシステム内でデータ共有し、分析情報を各パイロットに提供します。また、搭載されている維持整備システムは整備の必要時期、整備内容(整備必要箇所、交換部品)の情報を自動通知するシステムになっている。

 (3)F-22の上昇性能とスーパークルーズ能力
 将来に亘って戦闘機が戦闘の主体として存在すると思っておりますし、そのため、航空防空システムの中で、将来をしっかりと見通した戦闘機が今後も必要だと思っています。  F-22のデモンストレーションを見た方がおられると思いますが、F-22はどんな環境下、例えば、通常の失速状況下でも、機動飛行が可能です。パイロットとして、より早い、より強力なパワーの戦闘機の出現を常に待望しています。これまでのF−22のBFM(Basic Flight Maneuver)訓練においても、パワー不足を感じたことがあります。  F-22のスーパークルーズ能力は、パイロットとしての決心時間を短縮させ、相手の状況判断サイクルを混乱させることが特長です。スーパークルーズ能力は戦闘機の飛行能力は元より、搭載兵器の運用に対しても大きな力を与えました。  F-22の2度目の飛行訓練でハイ・ファースト・クライム訓練を行いました。ティンドルAFB離陸後、すぐ海上に出て、上空に向かってどんどん上昇させました。機長の言う通りに飛行していた所、気が付いたら、50kftの所まで上昇し、速度は1.5M→1.6M→1.7M→1.8M→1.9Mとどんどん上がって行きました。速度が軽快に上がって楽しい経験でした。 加速性能は、こんな感じでした。  数ケ月後に、ヒルAFBで、GPS機能付きのGBUの爆弾投下の飛行訓練を行いました。射爆場の上空約4,000ftで、エンジン・パワーをアイドルにしましたが、速度は1.5Mで、ABは必要なかったです。目標はトラックの後部で、2.5NMの距離から投下しました。トラックの後部には命中せず、トラックの運転席に命中しました。  2年後にイラクの実戦で、同じ爆弾を距離4NMから投下できました。それがスーパークルーズの凄さです。

 (4)F-22の空戦能力及び戦闘支援能力
 F-22の戦闘訓練はティンドルAFBからラングレーAFBに移動して実施しました。ラングレーAFBに元々1機、ティンドルAFBから2機借りて、合計3機のF-22がありました。F-22は3機しかありませんでした。航空機の稼働状況が良くなく、かつ着任してから1ケ月間は、団司令の業務もあり、F-22プログラムも作成しなければならず、なかなか航空機に搭乗する機会がありませんでしたが、1ケ月後に、3回搭乗することができました。2005年8月までの3年間で7回、F-22に搭乗したことになります。その時の飛行中隊長が、御存じの方もおられるかも知れませんが、去年まで2年間、在日米軍で勤務し、特に震災の対応では本当に素晴らしい活躍をしてくれたヘッカー大佐です。 ヘッカー大佐からチェック・フライトを受けました。 F-22 2機とF-15 6機での飛行訓練で、ただし、F-15は撃墜後、再復帰させるので、結果としては、12機と戦闘する環境です。シナリオによって再生の仕方は様々ですが、360度の全ての方向で再生可能で、その段階でF-15が我に向かってくる状況でした。 F-22の搭載兵器は4発のAMRAAMと2発もAAM-9Xでした。 合計12機の敵に対して、自分たちの保有するミサイルは2機で12発ですので、1発の無駄も許されませんでした。  まず、最初の6機との交戦で直ぐに6機を撃墜し、更に再生した6機を撃墜しました。これを2回実施したのですが、結果は、同様の結果でした。 その段階で、F-15は燃料が少なくなったので基地に帰投したが、F-22は燃料に余裕があったので、BFM(Basic Flight Maneuver)の訓練を実施しました。 ラングレーAFBに所属しているF-15パイロットは、大変優秀で、選抜された者達です。合計2回、飛行訓練を実施しましたが、6人のパイロットの中で1人のパイロットだけがF-22を1回だけ視認(Engagement)とのことでした。これは、我々の操縦技術が高かったということではなく、F-22の素晴らしい性能のお蔭です ・Northern Edge演習(アラスカ) その8ケ月後、アラスカで行われたNorthern Edge演習に参加しました。大きな統合演習で、様々な航空機が参加し、演習環境も複雑で、電子戦も使われました。第1週のF-22の撃墜率は108対0でした。 これでは戦いにならないので、第2週以降は、戦いに制限をかけたが、第1週、第2週の合計の撃墜率は242対2であった。この時の2は、これはF-22ではなかったです。演習期間中、例えば、上空において旋回しながら、Air Battlement Management Systemのアセットの一部としてF-22が訓練参加しました。  例えば、AWACSから270度方向に数機の編隊がいるとの情報があり、それをもとにF-22が捜索・分離して、編隊は6機構成との要撃情報をF-22からAWACSに連絡しました。また、AWACSはF-22のこの目標情報を他のF-15に連絡しました。 戦闘が行われている時に、地上から別の情報がF-22に入ってきます。 F-15等既存の航空機のレーダー能力では地上目標の捜索能力が限定されていので、F-22からの目標情報を地上に連絡し、それをもとに、F-16ワイルド・ヴィーゼルが目標を攻撃するというものでした。 また、4機編隊のF-15が目標を捕捉し、目標に向かって飛んで行った時、そのうち2機のF-15が同一目標を捕捉追随していることが判明し、F-22からその情報を2機のF-15に連絡しました。更に2機編隊の敵機に対し、F-22が捕捉し、2発のミサイルで撃墜し、直ぐに、戦域全体が見える位置に遷移し、任務の継続を行ないました。

 3 空自への提言等
 F-22の能力を考えると、Fという概念が適切ではないのかもしれません。 空自ではいずれF-35が運用開始されますが、そのための準備をする必要がある。全面的に変革が必要ですが、特に戦闘機による攻撃等の飛行運用については大きな変革が必要です。 飛行訓練、シミュレータによる地上操縦訓練、戦闘機運用、整備要領等これまでの経験した戦闘機と全く異なるものになってくるでしょう。  もしかしたら、私と同様、F-35のFはFighterのFとは、必ずしも適切でないと思われるかもしれません。(つばさ会会報から転載)

(平成24年5月18日、JAAGA総会時講演、グランドヒル市ヶ谷)


JAAGA講演会(2012・5・18)
−第五世代戦闘機−

在日米軍司令官 フィールズ中将