ゲーツ長官の判断と決心

            

 ゲーツ長官が6月5日マイケル・ウィン空軍長官と制服組トップのマイケル・モズリー空軍参謀総長に辞表提出を求めたとの情報は既にご承知だと思いますが、ここで、関連記事を取り纏めて改めて紹介したいと思います。
 ゲーツ長官は、2006年に核弾頭ミニットマンⅢICBM用の起爆部品(MK12 Forward Section Reentry Vehicle 10個)を誤って台湾に輸出した事案、及び、昨年8月に核弾頭搭載クルーズミサイルを積載したB52戦略爆撃機が未許可のままノースダコダ州のミノー空軍基地からルイジアナ州のバークスデール空軍基地まで米本土を縦断飛行した事案について、今年3月25日、核技術及び運用の専門家であるカークランド・ドナルド米海軍提督に詳細な調査を命じています。

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 ドナルド・レポートの詳細は未だ非公開ですが、ゲーツ長官の説明によると、「核管理に関して米空軍に深刻な構造上の問題が存在」しており、その概要は以下のとおりとのことです。
 その第一は、核兵器は米国の軍事戦略上極めて重要な戦力であるにもかかわらず、現在の空軍には核兵器を運用・管理する組織としての明確かつ厳格な責任感及び首尾一貫した規範が欠如している。過失、過誤の連鎖が断ち切れていない。規律は弛緩しておりリーダーシップの欠如が甚だしい。
 2番目は、核兵器ノーズコーンの不適切な輸出事案は、空軍や調達庁の既存の監督・監査システムが適切に機能していれば防止できたはず。
 3番目は、今回の調査により、空軍の核に係わる専門家が極めて不足している現実が判明。既に一年前から諸々の対策を採ってきたところであったが、空軍には核任務に対する深刻な意識が欠如しており、核運用・管理に関しての人材育成も未だ適切になされてきていない。更に、核任務に対する予算投資が最近不十分。
 報告書は更に、「空軍には、核兵器に関わる問題を深刻に自己分析するという文化が欠けており、過去の事案に関しての厳しい自己批判がなされていない。結果的に適切な要因分析ができていない。」と指摘しています。また、「このような問題や過失は最近の現象ではなく少なくともここ10年間に渉ってのものであり、今回の2件の不祥事は類似性があり主因は同じところに所在する。」それは、「空軍による核規律が極めて不適切な状況であるということであり、核兵器の管理・監督に関する空軍のリーダーシップが欠如していることに他ならない。」と厳しく指摘しています。
 そして、ゲーツ長官は、(1)核任務に関する空軍のリーダーシップが欠如していること、(2)核能力に関する信頼性が低下していること、(3)空軍による核任務の管理・維持に関わる問題是正が適切になされないこと、(4)空軍による調査が根幹的な原因分析に至らず、結局、ゲーツ長官主導の調査を行わなければならなかったこと 等の状況に鑑み、また、核任務に過誤は認められず、更に、米国の核任務及び管理に関わる米国民及び国際的な信頼関係を損ねるわけにはいかないことから、決断力のある迅速な行動が必要であるとして、両名に辞表提出を求めることとしたとしています。
 ゲーツ長官は、5日の退職勧告の説明のあと、NORADやネリス空軍基地、ラングレー空軍基地等で空軍の将官兵士等に関連のスピーチを繰り返して実施しています。空軍長官と空軍参謀長の同時更迭という衝撃的な人事による空軍部隊の動揺と士気低下を防ぐ意味があったと思われます。

                  

 また、上記の核関連についての説明の後、ゲーツ長官は次の指揮官に望むこととして以下のとおり付言しています。
 まず第一に、核抑止の体制を堅固にすること。(ゲーツ長官とカークランド・ドナルド提督が議論したところによると、最も重要な結論は「核兵器プログラムに係わる権限と責任が幾多のコマンドに分散していることが問題」「核兵器の運用、維持管理、人材養成等が責任ある単一の指揮官(組織)で管理されていない。」 次の指揮官はこれを念頭に置き体制改革を実施すべきであるとしています。それはSACを再び復活させる選択ではなく、ACCが責任を持って管理すべき。所要経費は空軍もしくは国防省予算を適用)
 第2に、米空軍の近代化プログラムを如何に適正にするかを速やかに意思決定すべき。いつまでも議論はしておれない。(空中給油機の課題について議会対応も含め早期解決のこと。F22とF35のシェアを意思決定すること。なお、ラングレー空軍基地はF22実運用部隊が最初に配備された戦闘航空団であったことから、「F22取得に係わる意見の相違が指揮官更迭の理由か?」という質問があったが、「それは事実ではない。その件は既に決着がついており、次の政権がF22とJSFのバランスについて決定する。」と返答。)
 ゲーツ長官は今年5月コロラド・スプリングにおけるヘリテージ財団への挨拶の中で「将来の戦争に備えることはもちろん大事であるが、今の米軍にとって最も大事なことは、イラクとアフガニスタンの戦闘に関心を集中すべきこと、非対称脅威に対する戦闘に勝利すべく体制を再構築ことが最優先課題」と強調しています。また、マクスウェル空軍基地においてゲーツ長官は「現在戦闘中の戦況改善を最優先」としつつ、空軍エアパワーの将来構想に関して、因習や経歴にとらわれない新たな発想での問題解決を促しています。かかる説明の中でゲーツ長官は「朝鮮半島、台湾海峡にリスクが存在しないわけではないが、比較的それは分別があり(prudent)マネージ可能な(manageable)性格のもの」としています。また、有人機の必要性についての再確認、UAVの費用対効果比較の必要性等についても言及しています。
 ちなみに、ゲーツ長官は、Schwartz将軍を新しい参謀総長に選定した理由として以下のように説明しています。
 「 He brings fresh eyes to these issues. He’s very smart, very process-oriented. The changes he has made in Transportation Command has been pretty dramatic. 」「It was mobility, jointness, special operations and being very, very smart 」
 なお、国防省は「核兵器マネージメントに関するタスク・フォース」を6月12日付で立ち上げています。メンバーは、ジェームス・シュレジンジャー元国防長官を議長として、マイケル・カーンズ退役空軍大将、エドモンド・ジアンバスターニ退役海軍提督、ジョン・ハムレCSIS所長等が指名され、カークランド・ドナルド海軍提督の調査報告書及び空軍、海軍、調達庁報告書をもとに、第1次報告を60日以内に、最終報告を120日以内に国防省に提出するよう求めました。  以下、5日のゲーツ長官記者会見の際のQAの一部を添付します。(下線は筆者)
  (ボストン在住、永岩会員記)

  Q Did you conclude that General Moseley and Secretary Wynne were simply incapable of changing course and fixing the problems, or were they unwilling to do what you wanted them to do?

  SEC. GATES: I believed that we needed a change of leadership to bring a new perspective and to especially underscore the importance of accountability in dealing with these kinds of problems. As I say, I have the highest respect for both men, but I felt the change was needed for a number of these reasons.

  Q Sir, can you tell us -- the other two pieces of the investigation, into the Navy nuclear arsenal and the DLA -- did they find similar problems, or did they get a clean bill of health?

  SEC. GATES: The investigation really did not deal with the Navy part of it. It did deal with the Defense Logistics Agency, identified some problems. And there are a couple of disciplinary recommendations that have been made to the secretary of the Army.

  Q Dr. Gates, you have been critical of the Air Force and other officers who have been not focused on the current wars. You used "next war-itis" in one speech. You criticized UAV efforts. How much do these other issues that you have highlighted in speeches regarding the Air Force come into your decisions on a leadership change?

  SEC. GATES: I've made the decisions that I've made based entirely on Admiral Donald's report.


ボストン便り No.7