米軍は、今、将来を見据えていろんなトランスフォーメーションを実施していますが、中でも重要視しているのが、将来に通用する「人的戦力」を如何に養成するか、あるいは確保するかということです。
わが国の実情から見ればうらやましい限りですが、学内で学ぶ軍人の数は相当多く、初級幹部クラスの学部内学生をはじめ、博士号取得のために KSG やフレッチャースクール或いは MIT 等で学ぶ大佐や中佐クラス、更に、年に数回2ヶ月程度に渉って実施される将官クラス(シビリアンや外交官、企業関係のシニア等を含む)の高等集合教育等と幅広くそして体系的にプログラムされていますし、その内容は多彩です。
KSG で学ぶ大佐や中佐クラスの関心は、特定の地域情勢に関すること、経済学、経営学、地政学、安全保障政策等々と多種多様です。彼らはここでしっかり学んで早々にまた現役復帰していきます。彼ら自身の能力向上はもちろんのことですが、彼らがここに所在するもうひとつのメリットは、横のつながりの拡大でありシビリアン等との情報の共有が可能なことです。KSGには色々な勉強会がありますが、彼ら軍事研究グループが主催している「国家安全保障問題研究会」はその役割を十分に果たしているといえます。その勉強会では、彼ら自身の具体的な体験談等を基にしたいろんな内容のブリーフィングがなされ活発に議論が交わされています。そこには外国からの研究者等も多く参加し、米国にとっては耳の痛い質問も出てきたりしてなかなか刺激的です。
また、その勉強会には、ペンタゴン等からの現役の将官等が毎週のように参加してくれます。
先週は、 Air National GuardのDirector である McKinley 中将が来校して講義してくれました。その際の聴講者は特に軍関係者でしたが、話の内容は、米軍の将来に渉る「人的戦力」に関わる課題認識を共有しようという「後輩に対する激」そのものでした。なかでも強調されたのは統合教育の必要性や予備役の軍人に関する課題の紹介でした。内容の一部を紹介したいと思います。
1、「Strategic Plan for Joint Officer Management and Joint Professional Military
Education」
地球規模の戦争やテロリズムに適切に対応するためには、現役のみならず予備役の軍人に対しても同様の高度な統合教育や実戦経験が必須。2006年以降、
Joint Officer Management に関して種々の施策が講じられてきましたが、2007年10月以降の新しい Joint Qualification
System (JQS) によると、すべての幹部は、予備役も含め、必ず「統合教育」を受け、「統合職」に就いて「Joint Qualification
Officer (JQO)」として任命管理されることになりました。人事管理上の統合点数制度はやや複雑ですが、フェーズⅠとⅡに渉る統合教育を受け、また、統合職リストに基づくポストに3年以上勤務するという標準的な「Joint
Duty Assignment」に加え、予備役も含め、短期的な統合任務付与、教育、訓練の「Experienced-based Joint Duty
Assignment」を加算して人事管理されることとなりました。
2、「National Defense Authorization Act 2007」
Joint Officer Management という定義に関する変更で注目されるのは、それが、ほかの機関や同盟国等の範囲まで大幅に拡大されたということです。「Joint
Matters」 は、現在、以下のとおりに定義されています。 「Joint Matters は、 Multiple Military Force
による地上、海上、空中、宇宙あるいは情報空間を通じた全ての領域に渉る統一された行動はもちろんのこと、国家軍事戦略、戦略計画及び事態計画、統合軍における指揮統制、国防省以外の機関等も含めた国家安全保障計画の立案および同盟国の軍隊との共同運用も含めた全てを含めて考えることとする。」
また、統一運用される「Multiple Military Force」とは、 「軍隊に加え、米国の国防省以外の省や関係機関、他国の軍隊や関係機関、非国家機関の関係者等が含まれたもの」という認識になっています。
3、「PUNARO Commission on National Guard and Reserve (CNGR)」
National Guard and Reserve 軍の改革に関して「PUNARO Commission」から提案されている要点は以下のとおり。
・ 運用可能な予備役を維持する。
米国の国家安全保障戦略を維持するためには、運用可能な予備役の確保が欠かせない要件のひとつである。冷戦モデルの戦略的な予備軍はいまや必要ない。徴兵制度を忌避しつつ軍の要求に適切に答えるためには、運用可能な予備役を長期に渉って確保する必要がある。
・ 国防省の国土防衛の任務を強化する。
国防省は、各種戦闘と同様、国内の自然災害や人的災害に対しても適切かつ迅速に対応する必要が有る。米国議会は国防省に明確に任務付与すべきであるし、国防省は、必要な体制を整え、所要の訓練をすべきである。National
Guard やReserveはその中核として運用されるべきである。市民防衛のため、国土防衛長官と国防長官は、関連の計画や予算取得に関して密接に連携をとる必要がある。
・ 継続したサービスを確保する。
Defense Officer Personal Management Act と Reserve Officer Personal Management
Act を統合して、一つのシステムとする必要がある。 Goldwater-Nichols Act を変更して、予備役に対して、 joint qualify
を適用すべきである。DOD は軍人の恩給制度について大幅な改革を施すべきである。(軍人恩給の大幅カットを含む。)
・ 待機態勢を整え、能力の高い行動可能な National Guard 及び Reserve を準備する。
予備役を国内外において運用可能な体制とするため、議会は必要な予算処置をする必要がある。国防長官は必要な訓練体制を整える必要がある。議会は統合運用も含めた全体的な戦力装備要求に対して、統合装備調整、調達、契約及び装備計画に至るまで、適切な支援を実施すべきである。
Critical Dual Use Equipment に関して、遅くとも2013年までに、相応の部隊に提供する。
・ 兵員や家族等及び雇用者に対する支援体制を確立する。 議会は、兵員等の医療支援体制や厚生支援、税金等の補助政策を推進すべきである。また、家族の支援に関わる必要な予算を増加する必要がある。
・ 運用可能な National Guard 及び Reserve を支援するための機構や制度改革を推進する。
Reserve Force は、 Operational Reserve Force と Strategic Reserve Force の2つに分けて管理される必要がある。
勉強会の内容を一部紹介しましたが、人的戦力に関わる改革も米軍にとっては大事なトランスフォーメーションの一つです。21世紀の厳しい安全保障環境の中、より実戦的な体制を構築すべく、予備役をも含めた改革に真剣な米国の態度には学ばなければならない点が多くあります。
人的戦力に関わるわが国の課題は、いままであまり議論もされてきませんでしたが、予想以上に深刻だと思います。この課題は、自衛隊OBが現役に残した大きな負債の一つでもあります。より実践的な体制整備が望まれる中、この人的戦力に関わる意識改革も声高に応援しなければならない重要な課題の一つだと言えます。 (ボストン在住、永岩会員記)