ミュージアム・ファイン・アート (ボストン美術館)

 ボストンに来て早や半年になりました。 
 「便りが無いのは無事の知らせ」とのスタンスを貫こうと思っていましたが、「消息や如何に?」のお声に少しお答えすることとして、閑話休題、思いつくままに書き留めたものをお送りしていきたいと思います。 テーマとしては、当地での日本についての関心や話題あたりに焦点を当てていこうかと思っています。 
 さて、第一弾はかの有名なボストン美術館です。こちらでは、「ミュージアム・ファイン・アート(MFA, Boston)」と呼ばれています。 
 先日、ライシャワーセンター恒例の朝食会にお誘いがあったので参加したところ、そこで、学習院大学からお出でになっているという小林忠先生にご挨拶する機会を得ました。 小林先生のご専門は美術史学系で、 MFA所蔵の浮世絵等関連のご講演でお出でになっておられるとのこと。お話をお伺いするうちに、先生の高校時代(都立小石川高校)のご同期が航空自衛隊でパイロットだったとかで、なんとそのパイロットとは防大9期の「細」大先輩。「世の中は本当に狭い」ということで話しが多いに盛り上がりました。 
 小林忠先生のことは、そういえばどこかで拝見したお名前だと思っていましたら、MFAの浮世絵の調査等にも関係されたその道の大家。 ちょうど先週MFAに行き、北斎の作品を目の当りにして興奮しきりの私にとっては先生のお話はとても貴重なものでした。

 
                   鳳凰図屏風 北斎

 この秋、ボストン美術館では、「Drama Desire : Celebrate Japan at the MFA」として、日本の江戸時代の作品を一部特別公開しています。 菱川師宣、喜多川歌麿、葛飾北斎、歌川広重、鈴木晴信等々、江戸時代に活躍した代表的な浮世絵師たちが描いた肉筆の浮世絵が展示されることは好事家にとってはこれ以上の贅沢はありません。

            
      朱鍾き図幟 北斎                 鏡面美人図 北斎

 ボストン美術館の浮世絵のほとんどは、明治時代に来日したアメリカ人医師のウイリアム・ビゲロー(ハーバード大学卒)の収集と寄贈によるものだと言われています。 しかし、その数があまりにも膨大なため作品の調査も進まず幻の浮世絵コレクションと言われてきたそうですが、1996年ごろから、先の小林先生等のご尽力で調査が進み、結局、700点にも及ぶ肉筆の貴重な浮世絵が発見され大騒ぎになったとの事でした。

                   
                     李白観瀑図 北斎 

 ここの日本美術収集や展示は上記のビゲローを始め、エドワード・モース、アーネスト・フェノロサそして岡倉天心の存在なくして成り立たなかったものです。まさに、日本の芸術遺産に対する彼らの眼力があったればこその貴重なコレクションだといえます。これらの美術作品が日本国内の美術館の所蔵でないのはちょっと残念な気もしますが、ここボストン美術館で、それらがとても大事にされ高く評価されそして愛好されている様子を見るのもそれはそれでまたとても嬉しいものです。 日本美術作品全体に漂う独特の繊細さや優しさ、しなやかさ、謙虚さ、そして力強さで、観客が万国共通の感動を共有する。 それらは、日本人の心意気や日本文化の一端を感じ取ってもらえるとても貴重な心の架け橋の役割を果たしています。ボストン美術館は、日本からのツアー客も含め、今日もほぼ満員の賑わい。 ボストン在住の学生達は他の美術館も含め全て無料で入館できます。 小学生達も授業の一環として見学していると聞き及びます。 幼少から世界一流の作品に日頃馴染めるとは本当にうらやましい理です。 小林先生によると、当時の作品の贋作を描けと言われても、それはいまや絶対無理な話だそうです。 技術的に、線一本もまともに引けないかもということでした。 それは、北斎晩年の「李白観瀑図」に見られる気迫溢れる滝一筋をみれば一目瞭然です。 日本の伝統文化を継承できないというのはなんとも残念な話ですが、少なくとも、これらの財産を誇りに思う心だけは大事に継承していきたいものです。  MFAを一回でご紹介するのには紙面に限界がありますので、追ってまた特別展のあった時にでもご紹介したいと思います。  (ボストン在住、永岩会員記)
 

ボストン便り No.2