ハーバード大学ライシャワー日本研究所の重要なプロジェクトの一つに「憲法改正論議に関する研究」というものがあります。
日本での改憲論議は政局の混乱等からこのところやや低調になってきているのではと懸念しますが、当地では表記のテーマでかなり熱心に研究会等が開かれています。
その関心の高さは、①以前はタブーだった改正論議への動きが、1990年中頃以降にわかに顕著になってきたこと、②改憲問題の本質が「日本の社会は如何にあるべきか、いかなる方向を目指すか」ということであり、将来の日本の「国柄」を表すものになると考えられること、③改憲問題は日本の政治・社会のいろんな側面に多大の影響を及ぼす重要な課題であること、④憲法問題に関する活発な議論が日本の市民社会の活力を表す指標であるとみていること等から日本を研究する上での格好の研究テーマとされています。
何故、今憲法改正論議なのかということについては、①特に防衛・安全保障問題に関して現憲法の解釈で対応するには諸々限界に至りつつあること、②日本の改憲に反対しないという米国サイドの数々のシグナル、③自衛隊の多様な海外活動の既成事実化、④日本周辺情勢の深刻化による自国安全保障への懸念、⑤いかなる改憲も軍国主義への回帰に繋がるとのリベラル派の旧来の主張が説得力を欠くようになってきた、こと等によると考えられています。
改憲機運の高まりも、最近の政局の混乱、歴史問題の再燃、改憲論に反対する活動の活発化等によって今後の展開は不透明であるものの、状況によっては流動的かつダイナミックに展開し始めると予測され、冷静な観察と緻密な分析が引き続き必要と考えられています。
また、このプロジェクトの目的は、改憲への動きを研究・記録してその政治・経済・社会・文化的傾向を理解することであるとされており、結果に関しては、一応、中立的な立場が原則とされています。
なおこのプロジェクトではウェブ・アーカイブの手法を取り入れており日本における70以上もの改憲論議の関連ウェブ・サイトを収集・保存しています。これらのサイトはこのプロジェクトのウェブ・サイトより閲覧可能となっていますので確認されることをお勧めします。(ウェブ・アーカイブは2008年12月より一般公開予定とのこと) 研究会は毎学期数回の割合で開催されていますが、日本での改憲問題をテーマとする授業もハーバード大学で開講されると聞いています。プロジェクトを支えるウェブページ等作成の中核はハーバード大学の学部生や大学院生を中心としたボストン界隈の学生です。
注目すべきは、改憲への具体的な動向を研究・記録する活動に加え、この研究は、愛国心を児童生徒に教えようとする(と考えられている)教育制度改革との関連や、現在の宗教界の視点と憲法改正の動きとの関連など、通常我々が意識しない極めて広範な領域に渉って日本研究するとされており、米国の日本研究に関する奥深さと意気込みの強さを感じます。
いずれにせよ、改憲に至るステップは日本が民主主義国である証を示すものとなり、改憲の内容は将来に対する日本の生き様や理念を表すものとなります。日本の「国柄」を世にアピールする格好の機会となりそうです。大統領選挙も終わり米国は「変わるアメリカ」ということで活気づいていますが、日本のほうは「変われるか日本」と興味深く観察されていることをしっかり認識していたほうがよさそうです。」 (ボストン在住、永岩会員記)